2018年12月26日水曜日

補修2

さて、装着していたインクカートリッジのインクを使い切ったので、前のエントリに続き再度クラックの補修を試みます。

まず、漏れ出たインクでよごれた首軸とニブ、胴軸、キャップを水洗し、5日ほどプラチナの万年筆インク洗浄液に浸しました。

それを水ですすぎ乾燥させた後、取り敢えずニブを外してみました。ニブは滑り止めに太めの輪ゴムを巻きつけて引き抜いた処、容易に外れました。続いてペン芯も引きぬこうとしたのですが、しっかり固定されているようです。

該万年筆の取説には、
ペン先はインキタンクの導管にしっかり連結しています。従って、どのような場合にも、ペン先を引き抜くようなことはお避け下さい。
との記述がありペン芯の取り外しは無理せず断念。外したニブは...外してしまったものはしょうがありません。
上写真はニブを外した首軸です。白く囲んだ部分にクラックがあり以前より目立っています。何度も弄ったせいかもしれません。

まず、ペン芯の空気が流入しそうな部分にメンディングテープを貼付し首軸内部の密封性を高めました。

で、前回と同様にクラックと思しき部分にスポイトで水滴を載せ、首軸を咥えて息を吸ってみると、確かに首軸内に水滴が吸い込まれます。息を吸い込む代わりに掃除機を使っても水を吸引できました。

後は低粘度で浸透性の高い補修材、接着剤を見つけてこのクラックを封止すればいいわけです。

このクラックを埋める材料を以前から調べています。万年筆の胴軸、首軸のクラック補修の事例もありましたが、決定的というほどの材料はないような印象です。先行例も含めいくつか選択肢を考えてみますと、

1.シアノアクリレート系接着剤

いわゆる瞬間接着剤。低粘度で高浸透性のグレードが選択可能。硬化後白化が生ずる、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン等、特定の樹脂を溶かす、ひび割れを起こす恐れあり。

2.エポキシ系接着剤

二液混合接着剤。一般にはペースト状で高粘度。充填、穴埋め剤としては好適ですが、粘性が高いため細いクラックに充填することは困難です。これまで使用してきた中では釣り竿のガイドを固定するスレッドのコーティング剤が比較的低粘度でした。ただそれでも、クラックに浸透するほどの浸透性はなかった記憶があります。

3.UV硬化接着剤

自動車ガラスのひび割れ補修材として使用されています。該補修材の使用方法を見ると、ひび割れ部分を密閉してシリンジで減圧することでクラックに浸透させることができるようです。手持ちのUV硬化接着剤も硬化前は滴下できる程度に低粘度です。問題は、黒い樹脂の万年筆首軸のクラックに浸透できたとしてUVライトや日光で硬化できるだろうか、という点です。透明な自動車ガラスに使用する場合との大きな相異です。ただ、UV硬化性の黒色ネイル液は補修後の表面コーティング剤として使えるかもしれません。

等を挙げることができます。他にネット上ではネジやボルト、ナットのゆるみ止剤を使用している例がありました。ただ、そういったゆるみ止材は一般に嫌気性接着剤で、
金属イオン存在下で酸素を遮断すると重合が行われる、液状アクリル系接着剤
といった特性の材料です。用途も金属用接着剤と明記されていて、”樹脂を浸食することもある”との記載もあり選択肢から外しました。

話は逸れますが、この嫌気性接着剤の代表的商品といえばロックタイトです。この商品名を初めて目にしたのは今から40年ほど前、大藪春彦の小説でした。作品名は失念。その接着剤の”嫌気性”という変わった機能が心に残りました。だからといって使用を差し迫られた場合もなく、実物も目にしないまま今に至っています。これほど身近になっていたとはちょっと驚きです。

で、上記選択肢の中から取り敢えず3.UV硬化接着剤を試してみました。手元にあった"5 Second FIX"という製品です。このUV硬化接着剤ですが、その名の通り付属のランプを5秒あてただけでは硬化しません。まぁ、天日に少なくとも数時間曝露すれば硬化するので使用しています。

前のエントリと同様に首軸を掃除機に繋いで、

 接着剤を塗布、

 天日に晒して硬化させた状態が下写真です。

 接着剤塗布部分がやや盛り上がっています。少し耐水ペーパーで削ったり、表面をマニュキュア除光液で拭いたりしましたが、これ以上はインク漏れが抑えられ正常に筆記ができることを確認してからとします。試し書きは問題ありませんでした。しばらく使用してインク漏れの有無を確かめます。

2018年11月26日月曜日

補修

手持ちの万年筆なんですが、
 ひどいインク漏れが起きます。
写真上のコンバータ装着、或いは、下のインクカートリッジを使用してもインク漏れが改善しません。書くことはできるのですが、キャップを2、3度嵌め外しするだけで、
白丸で囲んだ首軸部分にインクがべったりとつきます。
当初は、大きく孔が空いたペン芯が使われているため、キャップの取り外しで、この部分からインク漏れているのかも、と考えました。ただ、それにしても首軸がべったりとインクで覆われていて、ひどく汚れています。うっかり首軸部に触れません。

首軸を拭いた後、爪を立てて触ってみると僅かに引っ掛かる箇所があり、首軸部のひび割れが疑われました。ニブと首軸を水洗後、首軸内部に水が残っている状態で、コンバータの差し込み部から息を吹き込んでみました。
内部から漏れた水滴がついています。 首軸部に洗剤を塗布して同じように息を吹き込むと、
明らかにひび割れがあることが判りました。このクラックは手元の道具では撮影できませんでした。LEDライトで照らす角度を変えながらルーペで見て、髪の毛ほどの細い傷のような筋がなんとか視認できる程度でした。

さて、どうしましょうか。

取り敢えず上写真を参考にクラックと思しき位置に水滴を載せ、指でニブの孔を塞いで上記と逆に息を吸い込んでみた処、水滴は首軸内に吸い込まれました。何か接着剤を載せて首軸内に吸引してやればクラックを塞ぐことができるかもしれません。

試しにネイル?、マニキュア?違いがよくわかりませんが、とにかくそういった類の化粧品で、トップコートと称されるおそらく樹脂が溶解された透明の溶液を該当部分に塗布しました。塗布後、ゴムチューブをつけた掃除機の隙間ノズルに首軸を継いで吸引してみました。




トップコートが首軸内部に吸引されて多少なりともクラックが埋まるのではないかという、甘い算段でした...トップコートの乾燥後インクカートリッジを装着して試し書きしてみるものの、依然ひどいインク漏れは解消されませんでした。相変わらずキャップの嵌め外しで、細い僅かなクラックから漏れているとは思えないほど多量のインクが漏れ出ます。

そこで、応急処置的に該クラック部分にマスキングテープを巻いてみました。



クラックをテープで塞いでみて、それでもインク漏れが生じるならば他の理由を考える必要があります。これで該クラック以外のインク漏れの有無を確認できますが、見栄えは全く冴えません

このマスキングテープ貼付け以降、インク漏れは生じていません。このまま使用して、インク漏れの様子を見ながらインクを使い切った後、再度クラックを埋めてみます。

ところで、何度も首軸を水洗しているうちに、首軸内の部材が外れたようです。この樹脂製の透明で華奢な部材は...ナンダコレ?インクカートリッジやコンバータとペン芯とのアダプタなんでしょうか。

該部材にコンバータ、或いはインクカートリッジを差し込んでも先端部分までピッタリと装着できず、空間ができます。この空間部分がインクタンク?のような役割を担うのでしょうか。ここからインク漏れが起きているような気もしますが...

今、インクが漏れても構わないつもりで該部材を戻さずインクカートリッジを装着しているのですが漏れは起きていません。しばらく使い続けて様子を見てみます。
数日の使用でインク漏れが起きました。


マスキングテープの下で相当のインク漏れが認められます。抜本的な対策が必要です。




2018年11月16日金曜日

分別

いちいちパブリックサーバントはかくあるべし、などと大上段の物言いをするつもりは毛頭ないのですが、ちょっと程度が低いというか、意識低い系の集団なのかと疑わざるを得ないなぁと。

先日のクローズアップ現代では、相当抑制的に報じられていました。
ゆるキャラブームに異変!人気投票に”組織票”が…
渦中の四日市市長から出演の承諾を貰うにはそういう事前の打ち合わせがあったであろうことは想像に難くありません。

簡単には、大阪府東大阪市で11/17〜18に決定されるゆるキャラグランプリに際し、四日市は市長の号令の下、投票に利用するIDを約2万件取得したとのこと。このIDを同市の各部局に割り振り、フリーメールアドレスによる同市ゆるキャラである「こにゅうどうくん」への投票を要請したと報じられています。

単に組織を動員した投票だけでなく、職員一人当たり複数のIDを管理させることによる多重投票が指摘されています。更に、
投票方法について「メールアドレス1つにつき、毎日1回投票できます」
と、毎日の投票を促すという...市の担当者は「強制はしていない。ルール違反の認識はない」と強調しているそうです。

不正グランプリとまでは言いませんが、少なくとも”組織選挙の巧拙”、”(ルールの範囲内で)やった者勝ち”グランプリであるのは間違いない処です。

正に手段の目的化であって、公金使って遊んでんのか、と誹られるのも致し方ないかなと。本来、ゆるキャラ事業は地域の知名度向上、いわゆる地域おこしのための一施策に過ぎないという認識です。であるならば、生産性という視点から、ゆるキャラ事業に係るヒト、時間、予算といった投入資源と、ゆるキャラ事業によって向上できた知名度から得られた経済効果、この両者の比が精査されて然るべきです。

この日本全国に渡る一連のゆるキャラブームにおいて、真摯にゆるキャラの経済効果を考慮した上で該事業に取り組んでいるという自治体を寡聞にして存じません。穴を掘って埋める、何か動いていれば業務をしているつもりであるならば、それは大きな勘違いです。投入資源に対して何が生産されたか、それを適正に評価して次に反映させていく、いわゆるPDCAサイクルが廻ってこその業務です。

で、上述の組織選挙でゆるキャラグランプリを獲得したとして、果たして四日市市の職員は達成感は得られるのだろうか、素直に疑問に思います。”ルール違反の認識はない”という姿勢が市の総意であるならば、そういう体質と認識を改め、同様に現市長もルールの範囲内で組織選挙により当選した、そういうことかもしれません。

上記番組内で、四日市市長は、ご自身及び、市が行った組織選挙の正当性を主張されていました。しかしながら、語れば騙るほど墓穴が深堀されていき、自身の発言を撤回することがますます困難になるなぁ、といった感は否めませんでした。

公務の無謬性が具現化した一例です。

時同じ頃、愛知県尾張旭市では、

山尾志桜里氏が全面支援 尾張旭市長が“W不倫”トラブル
何を全面支援したのか、又、内容の真偽は存じません以前も記しましたが、政治家について”仕事さえちゃんと成果を上げるなら倫理上のスキャンダルは構わない”といった考えに与するつもりは毛頭ありません。

まぁ、悪名は無名に勝る、として来年のゆるキャラ(?)グランプに向けて”ヨッシー”擁立を提案いたします。ゆるキャラか不倫キャラかは知らんけど。

愛知七区の民度は盤石です。

2018年11月9日金曜日

衰亡

前のエントリに続けます。

鰻屋に事例を端緒に、将来的に飲食店の質的衰亡は避けられないのではないか、という思いに至りました。勿論、佳店は存続するでしょうが、全般の平均的な質は低下し佳い店が埋没してしまう、ということです。

昨今の出版不況と同じ道を辿っているようにも見て取れます。良書とまでは言わないまでも真っ当な本が、その他多くのどうでもいい本に埋没し、駆逐されていく...消費者を誘引する刺激的な、その一方で中身の伴わないキャッチコピーで購買意欲をかき立て、費用と時間を浪費せしめ、失望させ、新たな書物と向き合う意欲を減退させる、そんな悪循環にも似た状態を飲食の分野でも感じないでもありません。

いくつかの理由が挙げられ、その一つが出版と同じく過剰な粉飾であるのは間違いない処です。鰻屋の話が例外ということではなく、飲食の業界でこれまでもあった二極化が今後一層加速していくわけです。個人経営による飲食店はより厳しい存続の危機に直面していくものと思われます。特に問題と考えるのは良店ではなく、突出して秀でた部分はないものの、さりとてハズレでもない、無難な、いわゆる普通の店が苦境に立たされることを危ぶんでいます。

そういった店が、質の面で遜色のない、と言うかむしろ劣ることすらあるチェーン展開を進める大店に駆逐されていく様を見るのは、あまり気分のいいものではありません。

店主の高齢化、後継者難、商圏の少子高齢化といった避け得ない理由があることは承知しています。ただ、上述したような価値の粉飾と、食べログに代表される口コミサイトのレビューこそが該飲食店の存続を脅かしている主因である、と推測しています。口コミによる影響は出版分野以上ではないでしょうか。

昨今話題に上がる、消費税増税に伴う決済のキャッシュレス化導入への有形無形の圧力や軽減税率制度というのも、飲食業界の足を引っ張りこそすれ決して質の向上に寄与しないのは明らかです。飲食店に限ってはいませんが、キャッシュレス化については以前記しています。

本エントリでは、飲食店を疲弊させ衰亡に追い込んでいく、客による飲食店の評価、レビューといった、いわゆる口コミの力を考えてみます。

先日、NHKのクローズアップ現代+でも取り上げられていましたが、
暴言に土下座! 深刻化するカスタマーハラスメント
飲食業のみならず、スーパー、コンビニ等、接客が絡む業種で客からの無理難題、理不尽な要求、我儘、不当なクレーム、暴言によるトラブル事例をよく見聞するようになりました。場合によっては土下座の強要暴力沙汰に至ることもあるようです。

現実のトラブルにまでは至らずとも、その予備軍と位置づけられるネットの掲示板への不平不満の投稿となると膨大な事例が見つかります。口コミサイトへの不平不満や独善的評価の投稿は、抑制的な力が極めて弱いネットの匿名性によってエスカレートせしめられます。口コミサイトを不満のはけ口として利用し、”匿名で悪口を投稿する”、この行動で鬱憤をはらすことは、”大人の対応”という見方ができるかもしれません。店、店員とのリアルなトラブルにまで発展させない、という点で。

2018年11月4日日曜日

聖地

先日、軽トラ転倒騒動があったためか、今年はハロウィンに纏わる都知事や都議会議員の露出がほとんどありません。

こっちの都議会議員は離党やら週刊誌報道で、こっちの都知事は豊洲市場問題でそれどころではないのかもしれません。多少はイベントに出席しているものの、昨年までと力の入れ方は様変わりです。

元々、博報堂だかの広告代理店が仕掛けた人為的なイベントでハロウィンバブルといった感があります。数年前に火がつき、首長、議員を巻き込みつつ今年は炎上のピークを迎え、来年辺りポンプ車が登場、といった処でしょうか。つつがなく煽動の役割を果たした新聞、テレビなどのメディアも、来年は消火役に転じるのかもしれません。

今年も既にNHKは軽トラ転倒騒動を受けてか21:00のニュースで、
”終電で帰宅するように”とか、
”マナーを守って”
などと呼びかけていましたが、頭は大丈夫なんでしょうか。当該ニュースの視聴者は渋谷に行っていませんし、その時間に渋谷で騒いでいる仮装の連中が呼びかけを聞いている道理もないわけです。

まぁ、NHKとしては”ちゃんと呼びかけた”という事実を作ることこそが重要だったのかも。であれば理解はしますけど。

来年以降様々な対策が講じられるのでしょうが、渋谷がもはやハロウィンの聖地と化しているのは疑いようがありません。今後も都内のみならず各地方、場合によっては海外からもアレな人々が渋谷に押し寄せるのは明らかであり、これを押し止めるのは困難ではないかと。有料化や一定の強制性が導入されるのでしょうか。

有料化と共に代々木公園の開放などの声があるようですが、自由を制限した管理ハロウィンで一気に熱を冷ます目論見なのか...ふるさと納税フィーバーの終焉と時を同じくしてハロウィンバブルの崩壊が始まるのか、注意して見ておきたい処です。

このような不特定多数の参加者が集まるイベントでは当然の如く大量のゴミの散乱等、マナーの問題が発生します。花火大会、花見やバーベキューの場所となる海岸、河川敷、公園、海水浴場と同様です。これは避けられない、改善など望むべくもないとみています。しばしば民度の問題との指摘がありますが、匿名性が高く群集心理が働いている不特定多数の集団です。同様の場合、ある特定の目的にのみ集合した自由、換言すれば無秩序な集団が、目的以外の何らかの規律の下で行動する、そういった事例が思い浮かびません。

おそらく、誰かが片付ける、或いはその原資にもなる罰金、税金、入場料を含む何らかの強制性を導入する以外解決できないのではないでしょうか。同時に冷却効果も期待できますし。

さて、このような仮装というキーワードのみで繋がれたハロウィンの群集に対し、博報堂出身の地元渋谷区区長や、センター商店街振興組合理事長から批判の声が上がっています。
「許せない」渋谷区長 ハロウィーン有料化など対策検討へ
「ハロウィンではなく変態仮装行列」激怒の渋谷センター街理事長「来年は禁止に」「放置すればテロに繋がる」
”ハロウィンではなく...”の文言に”じゃ、本物のハロウィンって?”という疑問が過るのですが、それはさておき、これまで地域振興や商機と捉え便乗してきたのでは、という面は否めないのではないかと。

ハロウィンセールで売上を上げて、あわよくば聖地化の皮算用もあったはずです。秋葉原に倣って。ハロウィンという実体のないイベントに日本全国が浮かれる中で、渋谷を日本ハロウィンの聖地として観光名所化する、そんな思惑があったであろうことは容易に推測できます。

そういう助平心を棚に上げ批判の声で覆おうとしても、今更感が漏れ出てきています。断固排除の姿勢を示さない限り、渋谷のハロウィン騒動は沈静化と過激化を繰り返しながら、今後も続いていくものとみています。

翻って、名古屋では栄オアシスの状況が地元テレビ局やNHKのローカルニュースで流されていました。これを指して
”名古屋では混乱はなく”はともかく、”モラルがある”、”マナーが守られている”は大きな勘違いです。単に群衆の規模が小さかったに過ぎません。


ハロウィン騒動に代表される群集心理が、民主主義で言う処の民意と通底していないことを強く願っています。

尚、同日の報道で天皇の退位、新天皇の即位、新元号の発表や長期の連休等の話題が件のハロウィン騒動と共に報道されました。恰も同質のイベントとして扱っているような印象すら抱き、そういったメディアの姿勢に強い違和感を覚えました。残念です。

2018年11月3日土曜日

冷却

―あるところから徴する―
これが徴税の原則なんでしょう。故くは酒税やタバコ税が該当し、最近ではデジタル課税なんてものが検討されていたりします。

でですね、先日のハロウィン騒動を見聞していて仮装課税というものがあってもいいんじゃないかと。ついでに歩きスマホ税も提案しておきます。

消費税の増税分に充当できるような気がしないでもありません。

2018年10月8日月曜日

分岐

平日午後一時半頃。20台以上は停められそうな店前の駐車場は満車。少し離れた第二駐車場に停めました。名古屋市に隣接した市に在る、郊外の鰻屋です。

何店か支店を出している店のようで、店内には空き待ちのスペースがあり、席は半個室風で、多くの店員を擁した大店でした。

で、綺麗というか美味そうに印刷された品書きというよりメニューからうな丼定食(特)を選択しました。この丼の”定食”という以外に丼を選べないのも理解し難かったのですが、最も鰻が少なくて安価で(特)というのも違和感がありました。では、(特)は鰻1/2匹で何を意味するのだろうと。特価?特別?特上に対する特並とか...これではもはや”特”の意味がありませんけど。

メニューには右から(特、(極み)、(特)と記載されているのも混乱を催させます。鰻が多くなるに従い、(特上=2/3匹)、(極み=1匹となるようですがこの序列にはなっていませんでした。(特上)が筆頭=お薦めという意味なんでしょうか。

そんなあれこれを思いつつ、特段、瀬戸 田代のような鰻(大)の1/2匹を期待したわけでもなく、まぁ、”鰻を食べた”という満足感が得られれば十分、そんな心持ちでした。

配膳された定食(特)は、丼、汁物、小鉢、香の物に後ほど冷菓といった構成でした。丼は蓋なしですか、まぁいちいち指摘しても致し方ないことです。

まず目についたのは鰻で覆われていない白飯の余白部分ですが、1/2匹ですから勿論承知しています。ただそれ以上に鰻の細さ、貧弱さが気になりました。

ここの処、熱田あたりの有名店でも鰻の細さを指摘する声が上がっているようですが、シラス鰻不漁が具現化しているのでしょうか。

丼の並を注文して白飯の余白部分が目につく、即ち鰻の量云々を言うつもりは毛頭ありませんが、鰻の身が薄いのは頂けないなぁと。注文したのはではなくですけど、特がそれを意味するのであれば理解はできなくもありません。そういう店なんだと。接客が丁寧で小鉢やデザートがつく定食の体を装って肝心の丼がこれでは...却って不満が残ります。もっと鰻に心を砕くべきなんじゃないか、というのが率直な思いです。

上述したように品書きは、縦書きで右に「うな丼定食」とあって左端に料理の写真があって、その間に右から左方向に(特上)、(極み)、(特)と並べてあります。ただ、これは必ずしも鰻の量(=価格)の順にはなっていません。その順に並び換えれば(極み)、(特上)、(特)となります。1)この並びの意味する処に加えて、2)(極み)、(特上)、(特)という表記について少し考えてみます。

これらが店側のどういった意図を以って為されたものなのか、実際の処はよく判りませんが、推測、想像の域内で勘ぐってみます。


1)レイアウト


通常、(極み)、(特上)、(特)と並ぶ処、(特上)、(極み)、(特)と、(極み)と(特上)の位置が入れ換えられています。これはおそらく(特上)か(極み)、いずれかの選択へ誘導しようという意図の現れではないかと。では、そのどちら?、と問われても回答は見つけられていませんけど。

等級が三段階、例えば、[上・中・下]、[特上・上・並]、[松・竹・梅]とある時、人は中、上、竹といった中間の等級を選ぶ傾向にあるのはよく知られています。四等級以上の選択肢では、それ以上に最高等級から二番目が選ばれがちです。

これを踏まえれば、(極み)、(特上)、(特)と並んでいれば(特上)を、(特上)、(極み)、(特)であれば(極み)を選好する、そういった意図がこの配置に込められていないだろうか、と思った次第です。勿論、各々には価格鰻の量のついても記載がありますから、あくまで直感的な選好についての話です。

ただ、上述の(特上)、(極み)、(特)といった並びだけであれば(極み)が選好され易いわけですが、ここに「うな丼定食」という料理名との位置関係が選択に影響を及ぼす可能性も排除できません。

例えば下図のような二つの品書きがあった時、よく目にする並びはおそらくAではないでしょうか。
総称(とんかつ定食)を掲げ、代表性の高い順、概ね価格順に各料理が配列されています。とんかつ定食を注文しようとして、典型的だったり人気のある、換言すればハズレのない無難な料理は、Aの品書きではロースカツ定食である、ということです。一方、Bの品書きでは上ロースカツ定食がとんかつ定食の代表の位置に配置されています。

とんかつ定食の何か一つを注文しようとした時、料理の選択が自身の意志に委ねられるのは至極当たり前のことですが、この時、より正統的、一般的な料理にしようとすれば実は筆頭にある料理に誘引されることになります。

品書きAではロースカツ定食が、Bでは上ロースカツ定食が直感的、優先的に選択されているのではないでしょうか。本人の意志に加え、品書き中の料理の配列も選択(=自身の意志)に影響を与えているだろうということです。

これら二つの品書きA、Bにおける、ロースカツ定食、上ロースカツ定食に対する選好性の定量的評価は興味深い部分であり、ダン・アリエリー教授によ解析を願うばかりです。

うな丼定食も同様に考えられますが、”[上・中・下]の中、中間の等級を選択”と、”よりハズレのない代表的なものを選好”のいずれが支配的であるのか、残念ながらよく判りません。ただ、そういった要因で(特上)と(極み)、実際の注文数に差が生じることもあるだろうという話です。
今後、更なる検証が必要であるのは言うまでもありません。


2)表記

各丼の表記による序列が直感的に判じ辛く、店の意図を推し量れないことも少なからずあります。既に記したように、該鰻屋の場合では、(特)(特上)(極み)の表記です。(並)(上)特上)と意味する処は同じなんでしょうが、(特上)から(極み)が繋がりません。[特上大特上]か、[極上上]ならば序列は認識できますが...

”上”を繋げる特と極、更にその冠となる大、最の組み合わせの序列についての認識の曖昧さが理由です。(並)の語の使用を避けるためなんでしょうが、判り難くさの方が上回っている感がありますスタンダード、ミドル、デラックス、スーパーデラックス、アッパー、ハイクラス、ハイグレード、プレミアム、プライム、エグゼクティブの判り難くさと同じです。

特定のどれか一つに誘導する意図がないならば、いや、たとえ該意図があったとしても、やはり判り易い表記の方が好ましい、と考えます。わざわざ並を特と称して妙な期待感を抱かせるよりで構いません。或いは”標準”でも...[・上・特上]とか、”並”の語を避けるならば[鰻丼・上鰻丼・特上鰻丼]あたりが適切です。

まぁ、いずれにせよ先ずは並を選びますけど。寿司屋もそうですが、佳い店には十分美味しい並がありますから


話が逸れたまま長くなりました。この鰻屋を訪れて考えたのはそういった品書き云々ではなく、鰻丼を口にした時の満足感というものは店の規模に逆相関するなぁ、ということです。

東京銀座だったり、名駅の高層商業ビル内への出店、街道沿いの広い駐車場を備えた和風調鉄骨作りの店舗、そういった支店が増えれば増えるほど...品書きは写真付きのメニューへと変貌します。視覚で食欲が刺激されますが、店舗前を通って煙や香りで引き寄せられることはありません。

店内では和服様の制服を着用したパート従業員が丁寧に接客をし、会計はクレジットカードでの支払いができ、ポイントカードの作製を勧められることすらあります。

書き連ねていて、そういった鰻屋で旨い店が思い浮かびませんし、イメージもできません。決して不味いわけではないのですが、”美味しい鰻を食べた”という十分な満足感にまで至らない、そんなことがこれまでもありました。

支店など出すな、従業員を入れるなと言うつもりは毛頭ないのですが、少なくとも東京、大阪の繁華街や駅ビル、デパートにテナントとして出店している鰻屋はなぁ、と。クレジットカードが使えるなどもっての外です。

こういった鰻屋はもはや店ではなく会社です。事業として鰻丼を提供している、といった印象を抱きます。そこに職人は居るのでしょうか。

当初は個人経営の一つの店だったはずです。何が事業会社へと進ませ、或いは個人事業として留まらせたのかは存じません。ただ、鰻屋は事業ではなく生業としている店の方が佳いと確信しています。

誤解を避けるために、これは”儲けるな”という主旨では断じてないことを申し添えておきます。

さて、このような捻くれた見方を鰻屋だけでなく飲食店全般に当て嵌めてみます。

2018年9月24日月曜日

顧慮

かつて名古屋市名東区極楽に中華料理店がありました。現在は閉店しています。

中華屋というより中華料理店という店でホテル中華に似た料理が提供されていた覚えがあります。それほど古い店でもなく、流行っていたにも関わらず突然の閉店でした。

店主の体調不良が理由のようです。以下は閉店告知の引用です。
大切なお客様へ
急ではございますが店主の体調不良のため、今月をもちまして閉店させていただきます。たくさんの皆様に十六年間お越し頂きました事、心より感謝致しております。長い間、誠にありがとうございました。
ネット上ではそれまで概ね”美味しい”と高評価であったものの閉店時あたりになると、
値段の割には、大したことない味
料理出てくるの遅い
とか、
これまで行った中華料理の店で一番不味く、注文してから料理が出てくる迄遅すぎる❗
といった辛辣なクチコミを目にしました。店主の体調不良がその原因だった、そんな可能性も否定できないだろうと思った次第です。本当の処は存じませんけど。

学生時代頻繁に訪れていた和食屋?、定食屋?飲み屋にも似た話がありました。東京郊外、小金井市の店なんですが、懐かしさに駆られ、偶々クチコミ検索をしてみた処、”高齢の親父さん”、”親父さんが厨房に立たないからなのか、....”といった文言が...三十年以上前に通っていた店ですから、高齢なのはそりゃそうだよなと合点したものの、後者の言葉になんとなく引っ掛かりを覚えました。

それは2015年のクチコミでしたが、その二年後、喪中欠礼の葉書が届いたわけです。後ほど聞くところによると死因は癌だったとのこと。厨房に立たなかったのはそういう理由だったのでは、との思いが過りました。勿論、高齢ということもあったのでしょうが、年齢という理由だけではなかったのでは、ということです。特段、根拠はありません。

気丈な方ではありました。卒業して数年後、何人かの同窓と飲んでいたその日、息子さんが事故で危篤状態だったと後ほど聞きました。結局亡くされたとのこと。

それでもその日我々のために酒食の席を整えてくれていたことを振り返れば単に高齢と言う理由だけで厨房に立たなかったというのも俄に信じられず、上記の思いに至ったわけです。

だからといって、知る由のないことを慮れと無理を言うつもりは毛頭ありません。上記コメントにおいて、”事実は事実であって、そんなことは与り知らぬ、関知しない”と言われればそれは全くその通りであることは重々承知しています。

センチメンタルな話かもしれません。ネット上で制限なく開陳されているそういった匿名のコメントは、半永久的に残るというか、漂流し続けます。反論、否定、弁明されることなく...閉店していたり、故人になっていれば尚更です。

飲食店に限らずある事象に対する主観性の強いコメント、それが一旦ネットに放たれると、出所不詳で根拠不十分であったとしても、既成事実の烙印が押され一人歩きを始めてしまうことは珍しくありません。

今更ながらですが、相手の事情を酌むどころか思量もしないクチコミという表現の根幹に横臥している主観の、容赦ない身勝手さ、冷酷という本質を垣間見た気がします。

2018年9月8日土曜日

全力

先日、ラジオで耳にした報道です。
安倍晋三首相は5日午前、台風21号による関西空港の被害などについて、森昌文国土交通事務次官らから官邸で報告を受け、関係省庁が連携して早期再開へ全力で当たるよう指示した。
共同通信、毎日、東京、中日辺りの新聞は同じ文言を使っているようです。以前から、全力、完璧、完全といった修辞が多用されている総理の発言なんですが、上記では指示としての文言です。果たして”全力で当たらせる”ことは指示として意味があるのだろうか、違和感を抱いた次第です。

”全力で”という指示がないと省庁は全力を出さない、5割とか7割の力でしか取り組まない、ということならば上記指示も意義があるわけですが、この指示の有無で結果に差異が生ずるという理解でいいのでしょうか。

それはそれで、行政府の長から”全力で”という指示あって、はじめてフルスペックで機能する行政システムというのも、システムとして問題を内包していると言わざるを得ません。

或いは、この”全力”の語には粉骨砕身、不眠不休とか、寝食を廃して、或いはもっと具体的な勤務形態を指す、暗黙の含意を持つ公務員の専門用語なのか...
(期待も含めて)事態を大きく好転させる
そういった指示こそが為政者に求められているものであり、統治者として高い評価が与えられると考えるのですが。

”全力で当たるよう指示した”の文言からは、何だか一つの手続きというか、予定調和的な印象を拭えません。

黙して語らずでは野党やメディアの批判に晒されるのは確実です。しかしながら、だからといって、”関心を寄せています”、”蔑ろ、軽視していません”の意味で、予防線としての”全力で当たるよう指示した”には空虚感を覚えてしまう、というのが実の処です。

2018年9月7日金曜日

慄然

ちょっと書き留めておきます。なかなかの珍景だったので。

名古屋郊外のドラッグストアでのことです。最近のドラッグストアは、野菜、鮮魚、畜肉といった生鮮品はともかく、日常的な食料品の品揃えに驚かされます。

先日、適当な日用品やごくありふれた食品をカゴに入れてレジ待ちしていました。と、隣のレジで高齢の男性が、おそらくパートであろうレジ係の女性に苦情?文句を言っていました。怒鳴っているわけではありませんがそれなりに強い口調で、
値段が間違っている
と。レジ作業が滞り、困惑したレジ係は店長らしき責任者を呼んで対応を一任、両者は売り場の棚へ移動していきました。

やはり、”値段が違う”、”間違っている”とか、”本部の指示で”といったやりとりが耳に入ってくるわけです。一体なんだろうと、興味を引かれレジの列を離れて当該売り場付近に近寄ったのは私です。

漏れ聞くところによると、対象製品はポカリスエットの2Lボトルでした。棚に取り付けてある値札の間違いでもあったのか、と思っているとそうでもないようです。”間違いありません”と店側店員は応えていましたから。

更にもう少し窺っていると、
先週配布されたらしいチラシに特売品として掲載されていた価格と違う、間違っている
ということのようでした。???...えーと。よくわからないのですが、私の理解の域を超えているのは確かです。店側店員の、”価格は本部が決めています”とか、”それは先週のチラシの特売価格です”といった応えを聞けば、まぁ、そういうことなんだろうと。
一点の負い目もなく先週の特売価格を引き合いに現在の価格を間違いと断じ、その正当性を譲らない...

結局、当人は納得がいかないまま店員に文句を言って、不満気に当該商品を買っていきました。
ポカリが高けりゃアクエリアスを買えばいいじゃない
確か、マリー・アントワネットも言っていたはずです。多分。おそらく...

改めて、接客の仕事は辛いなぁと。サービス業全般で人手不足が叫ばれ、パート募集の貼り紙がいつまでも掲示されている理由もなんとなくわかりました。

くわばらくわばら。

2018年8月28日火曜日

上前5

前のエントリで記したように地方税、公共料金のクレジットカード納付に指定代理納付者制度という仕組みが適用されています。この制度は元々、地方税、公共料金をクレジットカード納付するに際して、生じる問題を解決するために設けられた制度と捉えています。
クレジットカード決済の導入による公金収納のサービス向上(知的資産創造 p.18 12.2006)
地方自治法の改正②(自治大阪 p.37 10.2006)
現実となった税金のクレジットカード納付
に拠れば、クレジットカード納付は債務であること、決済日時と納付日時、納付期限のズレ、定率手数料と手数料負担者といった問題が挙げられています。

物品を購入、或いはサービスを受ける際、対価をクレジットカードで決済するということは、買い手であるカードの利用者は債務を負い、売り手は債権を有することを意味します。売り手はこの債権をクレジットカード会社に譲渡して代金を回収し、クレジットカード会社は後日カードの利用者から代金を回収します。ただ、地方自治体が公金債権を第三者に譲渡するということは、徴税を該第三者に委ねることに結びつくため、該債権の第三者への譲渡は地方自治法の規定によりできないとのこと。

そこで、第三者への公金債権の譲渡ではなく、公金の納付を第三者が立て替えているとし、代金をカード利用者から回収すると解釈することで、公金のクレジットカード納付には法的矛盾はない、とされているようです。

この法的妥当性を明確にするために指定代理納付者制度が設けられたと捉えることは勿論できます。ただ、実はクレジットカード納付における手数料に関わる問題への対応が本来の

主たる目的ではなかっただろうか、と見立てています。

税金や公共料金のクレジットカード納付における手数料について、上記リンクから引用しますと、
2)クレジットカード手数料
現在、クレジットカード利用の手数料(以下「カード手数料」という。)は、いわゆる加盟店が負担することが一般的ですが、改正法におけるクレジットカード納付の制度化は、納付方法の多様化や住民の利便の向上、更には徴収効率の向上などを図る目的であり、こういった目的を達成するためには市町村による一定の費用負担はやむを得ないと思われます。現行においても、口座振替やコンビニ収納に係る手数料は市町村が負担しているところであり、カード手数料についても市町村が負担することになるものと考えられます。一方、カード手数料の水準については、カード利用者・クレジットカード会社・加盟店の三者間で決定される事項であり、各市町村においてクレジットカード納付の導入効果と経費を比較し、適切に判断することが重要です。その際、口座振替やコンビニ収納による場合の手数料との比較や収納効率などを十分に踏まえる必要があると考えられます。

(3)課 題
課題は端的に言って、手数料に尽きると考えられる。通常のクレジットカード決済のルールに則って、当然のことながら、税のクレジットカード納付の場合にも一件あたりの手数料が定率でかかることとなる。(中略)すなわち、今回導入しようとする「定率」の手数料という概念がこれまで公共にはなかったものである。当然、クレジットカード決済を提供する民間企業側からすれば、この定率制という基本スキームは維持されなければならないものである。一方で、総務省は、「地方団体がクレジットカード会社に対して手数料を支払う契約とする場合は、当該手数料の水準については、他の支払手段における手数料との均衡を考えながら、当事者間で適切に決定していただくべき」という課長通知を提示しているところである。今後、手数料の利用者負担も含め、どのように負担先を決定していくかということが大きな課題となってくることは疑う余地がない。
あります。

銀行・郵便局の口座振替及び窓口収納とコンビニ収納といった他の納付方法の手数料はいずれも定額制で、銀行の口座振替及び窓口収納で10円/件、郵便局の窓口収納で40円/件、コンビニ収納で60円/件と見積もられています。

これが例えば、50,000円の自動車税を1%の手数料でクレジットカード納付しようとすると、手数料は500円になるわけです。他の納付方法で求められる手数料と著しい乖離があり、当然その手数料を誰が負担するのかという話になります。

で、このクレジットカード納付の手数料負担を納付先である国税庁、地方自治体が柔軟に、言い換えれば都合良く差配するための仕組みが指定代理納付者制度ではないか、ということです。

今、例えばYahoo!公金支払いを利用したふるさと納税と固定資産税のクレジットカード納付を考えてみます。ヤフーが指定代理納付者です。ふるさと納税はYahoo!公金払いが利用できる適当な地方自治体、固定資産税は100,000円を愛知県春日井市に納付するとします。この時ふるさと納税の納付には手数料がかかりませんが、固定資産税の納付には1,026円の手数料が必要となります。

同一の指定代理納付者経由で公金を納付しても手数料が不要な場合があるということです。まぁ、ふるさと納税では納付した寄付金の中から納付先自治体経由でヤフーに手数料が支払われているであろうことは想像に難くないわけですが...表面上納付者に手数料が課せられない形になっています。

又、上述のように、”口座振替やコンビニ収納に係る手数料は市町村が負担しているところであり、カード手数料についても市町村が負担することになるものと考えられます”といった見方があるにも関わらず指定代理納付者経由の納付では手数料は納付者負担です。しかも手数料は納付額の1%程度で銀行や郵便局の口座振替、窓口収納、コンビニ収納の手数料よりかなり高額となる場合が多いはずです。

このあたりの整合しない部分を納付先機関に問い合わせても、
”それは実質的な納付者である貴方と指定代理納付者との間の取り決めで、当方は預かり知らぬこと。
そういった姿勢を各自治体は採れるわけです。手数料に纏わる様々な問題、矛盾を全て”貴方と指定代理納付者”に担わせる、このことこそが 指定代理納付者制度の実の趣旨ではないでしょうか。

更に言えば、以前のエントリで記しましたが、カード加盟店のカード利用者への手数料上乗せ請求は、利用金額や時間帯による利用制限と共に、店がクレジットカード加盟店としてカード会社と契約する際の規約違反に当たります。この規約に抵触という話も、納付者と納付先の間に指定代理納付者を咬ますことで、”納付先が手数料を徴収しているわけではない”という形になっています。クレジットカード納付以外の納付方法では手数料負担は納付先なんですが...

納付者が(公金+手数料)を指定代理納付者に支払うことと、納付者が公金を地方自治体等の納付先に支払うことは同じではないということなんでしょう。たとえ、納付先の収入が変わりないとしても。

少し検索してみると、
「国税クレジットカードお支払サイト」が手数料を徴収するのはカード加盟店規約違反では? 国税庁の人に聞いてみた
納税するのになぜシステム利用料を払わなアカンの~?
といったサイトが見つかりました。まぁ、クレジットカード納付で、カードの利用者に手数料を負担させるクレジットカード会社と納付先の取り決め、これが指定代理納付者制度ということです。

とまあ、手数料を納付先の公共団体ではなく、カードの利用者に負担させる法的な根拠は該制度によって与えられたわけですが、この制度によって著しい官民格差が問題として浮彫になります。

例えば、民間の飲食店であれば3〜5%とされるクレジットカードの決済手数料は事業者が負担することになっています。決済手数料をカード利用者に上乗せ請求することはカード会社との契約違反になることは既に記しました。その結果食店で事業者は利益の圧迫、提供する料理の劣化、価格の値上げのいずれかを余儀なくされています。

税金や公金の納付先である国や地方自治体等の公的機関なら指定代理納付者制度の下、手数料をカードの利用者に負担させることは認められるのか、という話です。官民の公平性という観点から疑義を抱かざるを得ません。

国税庁のクレジットカード納付のQ&Aというサイトに、
Q1-5 なぜ利用者が決済手数料を支払わなければならないのですか。
(答)
クレジットカード納付は、国税庁長官が指定した民間の納付受託者が、利用者から納付の委託を受けて、立替払いにより国に納付する仕組みとなっています。
 このため、納付受託者が国へ納付した後、利用者から代金が支払われるまでの間、一定のタイムラグが生じることとなり、納付受託者は貸倒リスクを負う一方、利用者は納付繰り延べなどの利益を得ることとなります。
 決済手数料は、このような納付受託者のリスクや利用者自身が享受する利益に対して納付受託者が決定しているものであることから、利用者自身がご負担していただく必要があります。
 なお、決済手数料は、国の収入になるものではありません。
というQ&Aがありますが、”納付受託者のリスクや利用者自身が享受する利益”は民間事業者でも変わりないはずですから、これが優遇の理由にはなり得ません。”決済手数料は、国の収入になるものではありません。”とありますが、銀行や郵便局からの引き落としや振替、コンビニ収納では納付に関わる手数料は納付先機関が負担しているはずであり矛盾を感じます。

ここの処、クレジットカードの決済手数料を巡る記事が目につきます。事業者の手数料負担の重さを如実に示しています。
コストコvsアメックスの再来? 激化する米クレジットカード戦争
目の前に来たキャッシュレスの時代
好調・串カツ田中が、あえて「キャッシュレス化」を進めない理由
この手数料負担の重さを鑑みれば、以下の記事もさもありなんといったところでしょうか。
クレジットカードがキャッシュレスの主役になれない理由
クレジットカードがキャッシュレスの主役になれない理由②
上記リンクでは、事業者側手数料負担の重さと共に、それでもカード会社(アクワイアラー)の収入は少ないことから、クレジットカードが日本のキャッシュレス化の主役にはなり得ない旨述べられています。

その流れが、

銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由

へと続いていくことになります。つまり、日本がキャッシュレス化へと向かうには低コストの決済システムが必須であるということです。

じゃ、誰がそれを実現できるのかという話になりますが、LINEという一民間事業者がその座を占めるのも支持することに躊躇を覚えます。キャッシュレス決済は今後社会インフラになり得ますから、より公共性の強い機関による運営が好ましいのでは、と考えます。

銀行や複数銀行の共同運営もその任は無理だろうと。関連会社にカード会社を抱えていますから。イシュアでもアクワイアラでもクレジットカード関連業務を有する事業体が、より低コスト、より低手数料のキャッシュレス決済システムを構築することはあり得ないでしょう。利益を削ってまでデファクトスタンダード、ある意味独占を目指す場合を除いては。

郵便局、農協、労働金庫といった金融機関までクレジットカード事業を手がけている以上、金融機関が率先して該決済システムを手がけるとは思えません。

日銀でどうでしょうか。中央銀行の、銀行の銀行という役割からは外れるかもしれませんが、発券銀行の役割からは強ち離れていないかもしれないような気がしないでもありません....決済にも関わりますからちょっと違うかも。

ただ、今後キャッシュレス決済が盛んになれば、キャッシュの流通量は減り、替って電子データが流通するわけです。であれば将来減少していくであろう銀行券発券にかかるコストを、電子データ、即ちキャッシュレスシステムの構築に振り向けることも可能なんじゃないかと思った次第です。

必要なのはやる気ですかね。日銀法の改正も必要ですし。

クレジットカードがキャッシュレス決済のツールたりえないことは上記リンクで述べられていますが、クレジットカードによるキャッシュレス化が好ましくないことも同時に記しておきます。

キャッシュレス社会で主な決済手段としてクレジットカードが利用されるということは、個人消費、税金や公共料金に関わる支出の合計の1〜5%は手数料で占められることを意味します。この額が社会システム運営の必要コストと受け入れられてしまうと、将来に渡って手数料という上前をハネられ続けることになります。

クレジットカード決済がキャッシュレス社会の手段として強く、深く、強固に根付くことは、換言すれば社会システムの硬直化、既得権益化を示します。カード決済でキャッシュレス社会を実現するには、該決済システムが社会システムの一部として組み込まれなければならないのは確かです。しかしながら、その普及が足かせとなってより先進的で効率的な決済システムへの移行を阻害するのは明らかです。

キャッシュレス社会が叫ばれる中、高コストのクレジットカード決済が更に拡大、浸透し、守旧システムとして居座り続けていくのか、新たな効率的な決済システムが取って代わるのか、或いは現状維持のままなのか...

カード決済のこれまでの浸透により代替となる新たな決済手段が生み出せず、既に身動き取れなくなっているようにみえるのは思い過ごしでしょうか。

2018年8月19日日曜日

背景

別エントリで地方税、公共料金のクレジットカード納付について記していますが、その実現、普及には複雑な仕組みが必要なようです。
イシュア、アクワイアラ?何ソレ?
仕組みの理解抜きに云々するのはちょっと無理かな、と。本エントリで整理してみます。拙い理解です。不十分な点、誤りはご容赦頂きつつ、随時加筆修正していきます。
イシュア:クレジットカードの発行会社。クレジットカードの会員を募集し、カードで決済された利用額を会員に請求、銀行口座から引き落とし。
アクワイアラ:加盟店契約会社。加盟店を募集、管理。加盟店から売上データを受け取り、カード決済された利用額を加盟店に支払う。加盟店からは手数料をイシュアからは口座引き落とししたカード利用額を徴収
平成18年の地方自治法改正で指定代理納付者制度が定めらました。地方税、公共料金の納付にクレッジトカードを利用できるようにするために定められた制度のようです。

総務省の
地方公共団体の財務制度の見直しに関する報告書(本文)
に拠れば、平成18年当時は、
現行の指定代理納付者制度については、地方公共団体と納入義務者、 指定代理納付者たるクレジットカード会社(イシュア兼アクワイアラ ー)の三者を念頭に制度設計されている。
とのこと。
地方公共団体の財務制度の見直しに関する報告書(参考資料)
から図を引用すれば、
において、加盟店を地方自治体とし、イシュア兼アクワイアラー(=クレジットカード会社)のみを指定代理納付者とした態様を想定した制度ということでしょうか。

ところが、今日、クレジットカード決済の仕組みは複雑・多様化して実状にそぐわなくなった結果、クレジットカード納付ができないケースが現れるようになったとのこと。

下図のようにイシュアとアクワイアラーとが分離していたり、決済代行業者が介在するケースを指してのことでしょう。

そこで、これまの規定で、
”指定代理納付者が「交付し 又は付与する」クレジットカード等に限定された仕組み”
換言すればイシュアとアクワイアラーが同一であるクレジットカード会社発行のカードのみに限られていたクレジットカード納付を、
より柔軟に、即ち、
単独のアクワイアラーのみでも指定代理納付者として代理納付をできるようにするべき”
という見直しがなされ、現在、下図の仕組みに至っています。

図中、アクワイアラー(インターネットサイト)が指定代理納付者ということです。

以前の仕組みの実例を挙げてみます。クレディセゾンは2008年3月分から国民年金保険料のクレジットカード決済の取り扱いを開始する、との公開資料がありました。
「《セゾン》カード/UCカード」の公金決済拡充 国民年金保険料のクレジットカード決済を開始
これが旧来のイシュア兼アクワイアラー(=クレジットカード会社)のみを指定代理納付者とする制度の適用例かと。日本年金機構にある国民年金保険料クレジットカード納付(変更)申出書(記入例)を見てみると、中程に決済に使用するクレジットカードを指定する欄があって”ご利用いただくクレジットカードに○印をつけてください。”とあります。このクレジットカード会社がイシュア兼アクワイアラーの指定代理納付者なんでしょう。



一方、現在の仕組みは、昨今クレジットカード納付が可能となった税金、公共料金の納付先である国税庁、地方自治体のサイトや国税クレジットカードお支払サイト愛知県県税 クレジットカードお支払サイトYahoo!公金支払いといった支払いサイトに示されている指定代理納付者を見れば適用されていることが判ります。

上記指定代理納付者はトヨタファイナンスとヤフーで占められています。別途クレジットカード支払いサイトを設けている国と都府県はトヨタファイナンスのみが、Yhoo!公金支払い利用して納付する地方自治体ではヤフーのみが指定代理納付者となっています。

確かに一つの指定代理納付者が多数、多様なイシュアに対応、様々なクレジットカードからの支払いをまとめて納付する形になっています。指定代理納付者が一社で仕組みが簡素化されていると言えなくもありません。しかしながら、見方をかえれば指定代理納付者の指定席化し、寡占状態になっていて競争原理が働かない状態にあるわけです。

ちなみに、現在の仕組みへと移行する大きな契機は、クレジットカード納付に対応することで寄付の促進を目論んだふるさと納税制度にあると推察しています。
「ふるさと寄附金制度」(いわゆる「ふるさと納税」)に係る事務の取扱いについて(平成25年9月13日付事務連絡)
で、クレジットカード納付を含む納付方法の多様化が推奨され、具体的な手続きも示されています。
上図の仕組みは、正に既に挙げたアクワイアラー(インターネットサイト)を指定代理納付者とした仕組みと相違ありません。その後、ふるさと納税という地方自治体が運営する通販システムは、納付の簡便さと返礼品、税額控除目当てに過熱していきます。

それと前後して平成25年の
地方公共団体の財務制度の見直しに関する中間的な論点整理
でも”複雑化するクレジットカード決済に対応すべく現行の指定代理納付者制度について見直しをすべき”との指摘は既にありました。

で、ふるさと納税の過熱化が呼び水となって平成27年の

地方公共団体の財務制度の見直しに関する報告書(本文)
を経て現在の仕組みに至った、と。こんな流れでしょうか。

以上の指定代理納付者制度についての予備知識を前提に次のエントリで元の話に戻ります。

上前4

前のエントリに続けて国保の保険料(税)、地方税、国税のキャッシュレス(クレジットカード)納付における手数料について考えます。

Yahoo!公金支払いを利用して国保の保険料(税)を支払う場合、納付先の市町村によって手数料が異なることが判りました。では、その他の市税、県税、国税ではどうでしょうか。調べてみました。

市税については愛知県内の市町村でYahoo!公金支払いが利用可能な市町村を、県税は自動車税を念頭にYahoo!公金支払いが利用可能な岐阜県と
愛知県県税 クレジットカードお支払サイト
を、国税は
国税クレジットカードお支払サイト
を参考にしました。

固定資産税や住民税といった市税では税金によって手数料が変わることはありませんがやはり市町村間で差がありました。例えば50,000円の市税を納付する際、税込みで
475円(蒲郡市)〜486円(一宮市、瀬戸市、春日井市、安城市、長久手市)〜540円(東郷町)
といった差があります。100,000円の市税納付で1%強の手数料が必要となります。

自動車税は岐阜県の場合Yahoo!公金支払い利用で、手数料は一件当たり324円と一律でした。愛知県では20,000円の納付で157円、100,000円の納付で788円だったりします。手数料は納付額に対し1%未満です。

同様に国税は20,000円の納付で164円、100,000円の納付で820円でした。手数料は納付額に対し1%未満ですが、愛知県より割高な手数料率となっています。

これらを俯瞰してみると、大雑把に言って、”ネットワーク上での数字の振替え操作”であるにも拘わらず納付する公金によって手数料率に差があることがわかります。果たしてこれは肯定できることなのか...

この疑問も頭の片隅に置きつつ、公金のキャッシュレス(クレジットカード)納付について少し調べてみました。

国税については、平成28年4月1日から施行された”所得税法等の一部を改正する法律”中、”六 国税通則法の一部改正(第6条関係)”内で定められたようです。
2 クレジットカードによる国税の納付制度を次のとおり創設することとする。(国税通則法第34条の3、第34条の5関係)
(1) 国税を電子情報処理組織を使用して行う一定の通知に基づき納付しようとする者は、納付受託者(一定の要件を満たす者として国税庁長官が指定する者をいう。以下同じ。)にその納付の委託をすることができる。
(2) 納付受託者が国税を納付しようとする者の委託を受けた場合には、当該委託を受けた日に国税の納付があったものとみなして、附帯税等の規定を適用するほか、納付受託者の納付義務、報告義務等について所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、平成29年1月4日から施行する。(附則第1条関係)

地方税、公共料金に関しては、クレッジトカード納付を想定して、平成18年に改正された地方自治法により指定代理納付者制度が定めらましたが、それでもすぐに広く利用されるには至らなかったようです。これは多様化、複雑化したクレッジトカード決済の仕組みの実状と、指定代理納付者をクレッジトカード会社とした想定が適合しなかったことが理由とされています。

このクレジットカード決済の仕組みと指定代理納付者制度はすんなりとは理解し難い部分もあり、一旦横道に逸れて地方税、公共料金のクレジットカード納付の仕組みを別エントリ記します

2018年8月14日火曜日

失態

威厳とか、権威、信頼、そういったものを堅持したいという思いの表れなのか、或いはメディア側の忖度なのか...

大阪府警富田林署で強制性交、強盗致傷容疑で逮捕、留置中の樋田淳也容疑者が逃走した事件が報道されました。

昨今、警察、及び警察官の不祥事や失態、犯罪は特段驚くほどの事件、事案ではありません。ただ、警察官個人に依る重大犯罪では県警幹部の会見映像が放送されることがあったものの、警察組織の失態、不祥事についての会見は極めて稀です。アナウンスされる報道の件数に比しあまりに過小です。

これが桜タブーと称されるものなのか。かつてより見聞する件数は増加しているように見受けられ、これは”以前より透明性が向上した”と前向きに捉える話なのかもしれません。

ただ、件の日本ボクシング連盟会長の辞任劇に纏わる執拗な取材、報道姿勢に較べ、重大事案であるにも拘わらずあまりに抑制的過ぎる気がします。

2018年8月10日金曜日

改称

とっとと改称しておけばこれほど問題にならなっかたかと。
東京医科大学 →
官僚子弟限定 東京現役男子医科専門学校
こう改称した上で、「女性研究者研究活動支援事業」の補助金をどう申請すれば採択されるか、文科省高官の指南を仰ぐべきでした。入試結果にどれだけ下駄を履せばこの校名で補助金交付を受けられるのか、お尋ねしたいところです。


(追記)

日本ボクシング連盟の会長による、競技団体の独裁、私物化や、奈良判定と称される判定の歪曲、連盟職員に対するパワハラが露見したことで、当該会長が辞任した案件がありました。

この辞任劇と、上記東京医科大学の不正入試事案でメディアの取り上げ方にかなりの偏り、強い違和感を禁じえません。問題の重大さを鑑みればやはり東京医科大学の公金詐取、女子受験生や浪人生差別、官僚子弟の裏口入学問題に報道の重きをおくべきだろうと。

ボクシング連盟の騒動は、あくまで団体を独裁支配した個人に留まる話です。勿論、奈良判定という競技判定の公正性に疑義を生じさせる部分もあり、これを看過して構わないということでは決してありませんが。

ただ、それ以上に東京医科大学の事案の取り扱いは過小です。恰もボクシング連盟の報道で、東京医科大学の事案を覆い被せたい、そういった意図の存在を感じます。

この意図の由来を考えてみると、医療行政、文部行政とスポーツ行政の有する責任と各々に対する批判の大きさを、メディアが忖度した結果なんだろうと推量できるわけです。

ボクシング連盟 会長の事案は、文科省の外局であるスポーツ庁が所管する競技団体の代表者が騒動の種になっているに過ぎません。しばしば言われる、人心の一新、いわゆる首のすげ替えで落着する話です。スポーツ庁に監督責任を問うなど批判の矛先が向けられることはありません。スポーツ庁がボクシング連盟役員の人事に介入することで、スポーツ行政自体には問題はなくむしろスポーツ庁は上手く機能していると受け止められます。つまり、行政に問題がないからこそメディアは躊躇なく連盟 会長を叩いているんじゃないかとの見立てです。

昨今、スポーツ団体役員、監督、コーチに纏わるパワハラ、セクハラ、暴力他の不祥事など日常茶飯事過ぎて、いちいち報道を抑える理由など見当たらない、という部分もあるのかもしれません。

では、東京医科大学の事案はどうでしょうか。一義的には東京医科大学に非があるのは論を待たないわけですが、更に深堀りしていくと行政や行政庁の問題に行き着いてしまいます。

受託収賄、公金詐取、公務員倫理、入試不正、女子受験生と浪人の差別、私学運営の不透明性、医師不足とそれに伴う医師の厳しい労働環境、女性医師の出産と育児、女性の就労、緊縮が求められる社会保障費、キーワードを列挙すれば、ボクシング連盟の比ではありません。

根源をみればいずれも一朝一夕で改善、解決できない問題ばかりですし、行政システム、最高学府の入試制度に留まらず私学の存在意義や官僚人事の根幹を揺るがす問題すら包含されています。

メディアとしては、東京医科大学の事案を目立たせずやり過ごすためもあって、ボクシング連盟の騒動を大きく取り上げている、というのが実の処ではないでしょうか。個人の問題に収束できる不祥事は、”ドブに落ちた犬は叩け”の言葉にあるようにメディアスクラムで飯の種にできます。しかしながら、行政制度やシステムの問題点指摘、組織の批判は腰が引けている、といった感が否めません。意趣返しを恐れての判断かもしれませんけど。