2018年12月26日水曜日

補修2

さて、装着していたインクカートリッジのインクを使い切ったので、前のエントリに続き再度クラックの補修を試みます。

まず、漏れ出たインクでよごれた首軸とニブ、胴軸、キャップを水洗し、5日ほどプラチナの万年筆インク洗浄液に浸しました。

それを水ですすぎ乾燥させた後、取り敢えずニブを外してみました。ニブは滑り止めに太めの輪ゴムを巻きつけて引き抜いた処、容易に外れました。続いてペン芯も引きぬこうとしたのですが、しっかり固定されているようです。

該万年筆の取説には、
ペン先はインキタンクの導管にしっかり連結しています。従って、どのような場合にも、ペン先を引き抜くようなことはお避け下さい。
との記述がありペン芯の取り外しは無理せず断念。外したニブは...外してしまったものはしょうがありません。
上写真はニブを外した首軸です。白く囲んだ部分にクラックがあり以前より目立っています。何度も弄ったせいかもしれません。

まず、ペン芯の空気が流入しそうな部分にメンディングテープを貼付し首軸内部の密封性を高めました。

で、前回と同様にクラックと思しき部分にスポイトで水滴を載せ、首軸を咥えて息を吸ってみると、確かに首軸内に水滴が吸い込まれます。息を吸い込む代わりに掃除機を使っても水を吸引できました。

後は低粘度で浸透性の高い補修材、接着剤を見つけてこのクラックを封止すればいいわけです。

このクラックを埋める材料を以前から調べています。万年筆の胴軸、首軸のクラック補修の事例もありましたが、決定的というほどの材料はないような印象です。先行例も含めいくつか選択肢を考えてみますと、

1.シアノアクリレート系接着剤

いわゆる瞬間接着剤。低粘度で高浸透性のグレードが選択可能。硬化後白化が生ずる、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン等、特定の樹脂を溶かす、ひび割れを起こす恐れあり。

2.エポキシ系接着剤

二液混合接着剤。一般にはペースト状で高粘度。充填、穴埋め剤としては好適ですが、粘性が高いため細いクラックに充填することは困難です。これまで使用してきた中では釣り竿のガイドを固定するスレッドのコーティング剤が比較的低粘度でした。ただそれでも、クラックに浸透するほどの浸透性はなかった記憶があります。

3.UV硬化接着剤

自動車ガラスのひび割れ補修材として使用されています。該補修材の使用方法を見ると、ひび割れ部分を密閉してシリンジで減圧することでクラックに浸透させることができるようです。手持ちのUV硬化接着剤も硬化前は滴下できる程度に低粘度です。問題は、黒い樹脂の万年筆首軸のクラックに浸透できたとしてUVライトや日光で硬化できるだろうか、という点です。透明な自動車ガラスに使用する場合との大きな相異です。ただ、UV硬化性の黒色ネイル液は補修後の表面コーティング剤として使えるかもしれません。

等を挙げることができます。他にネット上ではネジやボルト、ナットのゆるみ止剤を使用している例がありました。ただ、そういったゆるみ止材は一般に嫌気性接着剤で、
金属イオン存在下で酸素を遮断すると重合が行われる、液状アクリル系接着剤
といった特性の材料です。用途も金属用接着剤と明記されていて、”樹脂を浸食することもある”との記載もあり選択肢から外しました。

話は逸れますが、この嫌気性接着剤の代表的商品といえばロックタイトです。この商品名を初めて目にしたのは今から40年ほど前、大藪春彦の小説でした。作品名は失念。その接着剤の”嫌気性”という変わった機能が心に残りました。だからといって使用を差し迫られた場合もなく、実物も目にしないまま今に至っています。これほど身近になっていたとはちょっと驚きです。

で、上記選択肢の中から取り敢えず3.UV硬化接着剤を試してみました。手元にあった"5 Second FIX"という製品です。このUV硬化接着剤ですが、その名の通り付属のランプを5秒あてただけでは硬化しません。まぁ、天日に少なくとも数時間曝露すれば硬化するので使用しています。

前のエントリと同様に首軸を掃除機に繋いで、

 接着剤を塗布、

 天日に晒して硬化させた状態が下写真です。

 接着剤塗布部分がやや盛り上がっています。少し耐水ペーパーで削ったり、表面をマニュキュア除光液で拭いたりしましたが、これ以上はインク漏れが抑えられ正常に筆記ができることを確認してからとします。試し書きは問題ありませんでした。しばらく使用してインク漏れの有無を確かめます。