2018年8月28日火曜日

上前5

前のエントリで記したように地方税、公共料金のクレジットカード納付に指定代理納付者制度という仕組みが適用されています。この制度は元々、地方税、公共料金をクレジットカード納付するに際して、生じる問題を解決するために設けられた制度と捉えています。
クレジットカード決済の導入による公金収納のサービス向上(知的資産創造 p.18 12.2006)
地方自治法の改正②(自治大阪 p.37 10.2006)
現実となった税金のクレジットカード納付
に拠れば、クレジットカード納付は債務であること、決済日時と納付日時、納付期限のズレ、定率手数料と手数料負担者といった問題が挙げられています。

物品を購入、或いはサービスを受ける際、対価をクレジットカードで決済するということは、買い手であるカードの利用者は債務を負い、売り手は債権を有することを意味します。売り手はこの債権をクレジットカード会社に譲渡して代金を回収し、クレジットカード会社は後日カードの利用者から代金を回収します。ただ、地方自治体が公金債権を第三者に譲渡するということは、徴税を該第三者に委ねることに結びつくため、該債権の第三者への譲渡は地方自治法の規定によりできないとのこと。

そこで、第三者への公金債権の譲渡ではなく、公金の納付を第三者が立て替えているとし、代金をカード利用者から回収すると解釈することで、公金のクレジットカード納付には法的矛盾はない、とされているようです。

この法的妥当性を明確にするために指定代理納付者制度が設けられたと捉えることは勿論できます。ただ、実はクレジットカード納付における手数料に関わる問題への対応が本来の

主たる目的ではなかっただろうか、と見立てています。

税金や公共料金のクレジットカード納付における手数料について、上記リンクから引用しますと、
2)クレジットカード手数料
現在、クレジットカード利用の手数料(以下「カード手数料」という。)は、いわゆる加盟店が負担することが一般的ですが、改正法におけるクレジットカード納付の制度化は、納付方法の多様化や住民の利便の向上、更には徴収効率の向上などを図る目的であり、こういった目的を達成するためには市町村による一定の費用負担はやむを得ないと思われます。現行においても、口座振替やコンビニ収納に係る手数料は市町村が負担しているところであり、カード手数料についても市町村が負担することになるものと考えられます。一方、カード手数料の水準については、カード利用者・クレジットカード会社・加盟店の三者間で決定される事項であり、各市町村においてクレジットカード納付の導入効果と経費を比較し、適切に判断することが重要です。その際、口座振替やコンビニ収納による場合の手数料との比較や収納効率などを十分に踏まえる必要があると考えられます。

(3)課 題
課題は端的に言って、手数料に尽きると考えられる。通常のクレジットカード決済のルールに則って、当然のことながら、税のクレジットカード納付の場合にも一件あたりの手数料が定率でかかることとなる。(中略)すなわち、今回導入しようとする「定率」の手数料という概念がこれまで公共にはなかったものである。当然、クレジットカード決済を提供する民間企業側からすれば、この定率制という基本スキームは維持されなければならないものである。一方で、総務省は、「地方団体がクレジットカード会社に対して手数料を支払う契約とする場合は、当該手数料の水準については、他の支払手段における手数料との均衡を考えながら、当事者間で適切に決定していただくべき」という課長通知を提示しているところである。今後、手数料の利用者負担も含め、どのように負担先を決定していくかということが大きな課題となってくることは疑う余地がない。
あります。

銀行・郵便局の口座振替及び窓口収納とコンビニ収納といった他の納付方法の手数料はいずれも定額制で、銀行の口座振替及び窓口収納で10円/件、郵便局の窓口収納で40円/件、コンビニ収納で60円/件と見積もられています。

これが例えば、50,000円の自動車税を1%の手数料でクレジットカード納付しようとすると、手数料は500円になるわけです。他の納付方法で求められる手数料と著しい乖離があり、当然その手数料を誰が負担するのかという話になります。

で、このクレジットカード納付の手数料負担を納付先である国税庁、地方自治体が柔軟に、言い換えれば都合良く差配するための仕組みが指定代理納付者制度ではないか、ということです。

今、例えばYahoo!公金支払いを利用したふるさと納税と固定資産税のクレジットカード納付を考えてみます。ヤフーが指定代理納付者です。ふるさと納税はYahoo!公金払いが利用できる適当な地方自治体、固定資産税は100,000円を愛知県春日井市に納付するとします。この時ふるさと納税の納付には手数料がかかりませんが、固定資産税の納付には1,026円の手数料が必要となります。

同一の指定代理納付者経由で公金を納付しても手数料が不要な場合があるということです。まぁ、ふるさと納税では納付した寄付金の中から納付先自治体経由でヤフーに手数料が支払われているであろうことは想像に難くないわけですが...表面上納付者に手数料が課せられない形になっています。

又、上述のように、”口座振替やコンビニ収納に係る手数料は市町村が負担しているところであり、カード手数料についても市町村が負担することになるものと考えられます”といった見方があるにも関わらず指定代理納付者経由の納付では手数料は納付者負担です。しかも手数料は納付額の1%程度で銀行や郵便局の口座振替、窓口収納、コンビニ収納の手数料よりかなり高額となる場合が多いはずです。

このあたりの整合しない部分を納付先機関に問い合わせても、
”それは実質的な納付者である貴方と指定代理納付者との間の取り決めで、当方は預かり知らぬこと。
そういった姿勢を各自治体は採れるわけです。手数料に纏わる様々な問題、矛盾を全て”貴方と指定代理納付者”に担わせる、このことこそが 指定代理納付者制度の実の趣旨ではないでしょうか。

更に言えば、以前のエントリで記しましたが、カード加盟店のカード利用者への手数料上乗せ請求は、利用金額や時間帯による利用制限と共に、店がクレジットカード加盟店としてカード会社と契約する際の規約違反に当たります。この規約に抵触という話も、納付者と納付先の間に指定代理納付者を咬ますことで、”納付先が手数料を徴収しているわけではない”という形になっています。クレジットカード納付以外の納付方法では手数料負担は納付先なんですが...

納付者が(公金+手数料)を指定代理納付者に支払うことと、納付者が公金を地方自治体等の納付先に支払うことは同じではないということなんでしょう。たとえ、納付先の収入が変わりないとしても。

少し検索してみると、
「国税クレジットカードお支払サイト」が手数料を徴収するのはカード加盟店規約違反では? 国税庁の人に聞いてみた
納税するのになぜシステム利用料を払わなアカンの~?
といったサイトが見つかりました。まぁ、クレジットカード納付で、カードの利用者に手数料を負担させるクレジットカード会社と納付先の取り決め、これが指定代理納付者制度ということです。

とまあ、手数料を納付先の公共団体ではなく、カードの利用者に負担させる法的な根拠は該制度によって与えられたわけですが、この制度によって著しい官民格差が問題として浮彫になります。

例えば、民間の飲食店であれば3〜5%とされるクレジットカードの決済手数料は事業者が負担することになっています。決済手数料をカード利用者に上乗せ請求することはカード会社との契約違反になることは既に記しました。その結果食店で事業者は利益の圧迫、提供する料理の劣化、価格の値上げのいずれかを余儀なくされています。

税金や公金の納付先である国や地方自治体等の公的機関なら指定代理納付者制度の下、手数料をカードの利用者に負担させることは認められるのか、という話です。官民の公平性という観点から疑義を抱かざるを得ません。

国税庁のクレジットカード納付のQ&Aというサイトに、
Q1-5 なぜ利用者が決済手数料を支払わなければならないのですか。
(答)
クレジットカード納付は、国税庁長官が指定した民間の納付受託者が、利用者から納付の委託を受けて、立替払いにより国に納付する仕組みとなっています。
 このため、納付受託者が国へ納付した後、利用者から代金が支払われるまでの間、一定のタイムラグが生じることとなり、納付受託者は貸倒リスクを負う一方、利用者は納付繰り延べなどの利益を得ることとなります。
 決済手数料は、このような納付受託者のリスクや利用者自身が享受する利益に対して納付受託者が決定しているものであることから、利用者自身がご負担していただく必要があります。
 なお、決済手数料は、国の収入になるものではありません。
というQ&Aがありますが、”納付受託者のリスクや利用者自身が享受する利益”は民間事業者でも変わりないはずですから、これが優遇の理由にはなり得ません。”決済手数料は、国の収入になるものではありません。”とありますが、銀行や郵便局からの引き落としや振替、コンビニ収納では納付に関わる手数料は納付先機関が負担しているはずであり矛盾を感じます。

ここの処、クレジットカードの決済手数料を巡る記事が目につきます。事業者の手数料負担の重さを如実に示しています。
コストコvsアメックスの再来? 激化する米クレジットカード戦争
目の前に来たキャッシュレスの時代
好調・串カツ田中が、あえて「キャッシュレス化」を進めない理由
この手数料負担の重さを鑑みれば、以下の記事もさもありなんといったところでしょうか。
クレジットカードがキャッシュレスの主役になれない理由
クレジットカードがキャッシュレスの主役になれない理由②
上記リンクでは、事業者側手数料負担の重さと共に、それでもカード会社(アクワイアラー)の収入は少ないことから、クレジットカードが日本のキャッシュレス化の主役にはなり得ない旨述べられています。

その流れが、

銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由

へと続いていくことになります。つまり、日本がキャッシュレス化へと向かうには低コストの決済システムが必須であるということです。

じゃ、誰がそれを実現できるのかという話になりますが、LINEという一民間事業者がその座を占めるのも支持することに躊躇を覚えます。キャッシュレス決済は今後社会インフラになり得ますから、より公共性の強い機関による運営が好ましいのでは、と考えます。

銀行や複数銀行の共同運営もその任は無理だろうと。関連会社にカード会社を抱えていますから。イシュアでもアクワイアラでもクレジットカード関連業務を有する事業体が、より低コスト、より低手数料のキャッシュレス決済システムを構築することはあり得ないでしょう。利益を削ってまでデファクトスタンダード、ある意味独占を目指す場合を除いては。

郵便局、農協、労働金庫といった金融機関までクレジットカード事業を手がけている以上、金融機関が率先して該決済システムを手がけるとは思えません。

日銀でどうでしょうか。中央銀行の、銀行の銀行という役割からは外れるかもしれませんが、発券銀行の役割からは強ち離れていないかもしれないような気がしないでもありません....決済にも関わりますからちょっと違うかも。

ただ、今後キャッシュレス決済が盛んになれば、キャッシュの流通量は減り、替って電子データが流通するわけです。であれば将来減少していくであろう銀行券発券にかかるコストを、電子データ、即ちキャッシュレスシステムの構築に振り向けることも可能なんじゃないかと思った次第です。

必要なのはやる気ですかね。日銀法の改正も必要ですし。

クレジットカードがキャッシュレス決済のツールたりえないことは上記リンクで述べられていますが、クレジットカードによるキャッシュレス化が好ましくないことも同時に記しておきます。

キャッシュレス社会で主な決済手段としてクレジットカードが利用されるということは、個人消費、税金や公共料金に関わる支出の合計の1〜5%は手数料で占められることを意味します。この額が社会システム運営の必要コストと受け入れられてしまうと、将来に渡って手数料という上前をハネられ続けることになります。

クレジットカード決済がキャッシュレス社会の手段として強く、深く、強固に根付くことは、換言すれば社会システムの硬直化、既得権益化を示します。カード決済でキャッシュレス社会を実現するには、該決済システムが社会システムの一部として組み込まれなければならないのは確かです。しかしながら、その普及が足かせとなってより先進的で効率的な決済システムへの移行を阻害するのは明らかです。

キャッシュレス社会が叫ばれる中、高コストのクレジットカード決済が更に拡大、浸透し、守旧システムとして居座り続けていくのか、新たな効率的な決済システムが取って代わるのか、或いは現状維持のままなのか...

カード決済のこれまでの浸透により代替となる新たな決済手段が生み出せず、既に身動き取れなくなっているようにみえるのは思い過ごしでしょうか。

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