2014年10月5日日曜日

公共(2)

最初に、ウェブ上で閲覧可能なNHKの目的、ガイドラインを確認すると共に所感を記します。

NHKのサイトによれば、放送法で制定されているNHK(日本放送協会)の目的は、
《第15条》《目的》
協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに、...を目的とする。
とあります。

上記URLのページには続いてNHKによる説明が加えられています。冒頭部の引用です。
NHKは、全国にあまねく放送を普及させ、豊かで良い番組による放送を行うことなどを目的として、放送法の規定により設立された法人です。
意図的か否かは存じませんが、放送法にある、”公共の福祉のために”という語がありません。

豊かな番組、良い番組の定義もなかなか難しいわけですが、公共の福祉に適うことこそが一義のはずです。この視点から”豊かな”、”良い”が判断されるべきですが説明はありません。更に、番組が公共の福祉にどう寄与していくかといった姿勢もよくわかりません。

続いて、”よくある質問集”に、”公共放送とは何か”、”公共放送は本当に必要なのか”、といった問いに対するNHKの回答が掲載されています。
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公共放送とは何か(一部抜粋)

...公共放送とは営利を目的とせず、(a)国家の統制からも自立して、(b)公共の福祉のために行う放送といえるでしょう。
NHKは、政府から独立して 受信料によって運営され、公共の福祉と(c)文化の向上に寄与することを目的に設立された公共放送事業体であり、...
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公共放送は本当に必要なのか(一部抜粋)

公共放送は必要であると考えています。
公共放送の使命や役割は、視聴者のみなさまからの受信料をもとに、(d)放送の自主自律を貫き、(e)質の高い多様な番組や正確で迅速なニュースを全国で受信できるよう放送することで、(f)民主主義社会の健全な発展と公共の福祉に寄与することです。 NHKは、市場原理だけでは律することのできない公共性を強く意識し、特定の利益や視聴率に左右されずに放送事業を行っています。
NHKの番組には「大河ドラマ」や「紅白歌合戦」のように視聴者のみなさまの関心の高い番組だけでなく、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、市場性や視聴率だけでは計ることの出来ない、重要な役割を担うものが多くあります。また、緊急災害時に大幅に編成を変更し、ニュース・報道番組を放送することなどは、スポンサーの意向に左右されずに行うことのできる公共放送ならではの役割です。
(略)
東日本大震災からの復興、長引く経済の停滞、急速に進む少子高齢化など、日本が数多くの課題を抱える中、国民の生命・財産を守り、視聴者の判断のよりどころとなる信頼できる情報や番組をお届けする公共放送の役割は、ますます重要になっていると考えます。
また、放送と通信の融合が一段と進み、さまざまな端末を通して多種多様なコンテンツを誰もが自由に利用できるようになる中で、最新の技術を活用して利便性を高め、信頼されるコンテンツをお届けすることも、新しい時代の公共放送に求められる責務と考えます。 
(以下略)
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NHKが依拠する根幹を踏まえた、詳細な説明を求めたい文言が満載なわけです。正否はともかくとしてです。順次記していきます。


(a)国家の統制からも自立

当然憲法やその他法令からは逸脱できませんし、放送法による規制もあります。あくまで法令の枠内で国家の統制から自立であり、時の政府の干渉を受けないということでしょうか。では、法令、例えば放送法の改変に対して、自立を保つために抗うのか否か、いずれにせよ政治的な主義主張を持つことになってしまうような気がします。


(b)公共の福祉

上述しましたが、まず、NHKが礎とする公共の福祉についての十分な説明が必要と考えます。その上で、公共の福祉に対する放送内容の制作意図を明らかにし、更には結果として番組が公共の福祉にどう寄与したかを評価すべきかと。

未だNHKのサイトで公共の福祉についての詳細な説明を見つけられないでいます。


(c)文化の向上

(b)と同様に、文化の向上を云々する以前に、文化に対するNHKの認識が明確にされて然るべきではないかと考えます。NHKに限った話ではありませんが、概念が過度に抽象的、曖昧なままでは、本来認識が異なっているのか、実は同じだが齟齬があって共有できていないだけなのか区別ができません。

文化の向上という目的に対し、文化という概念の捉え方が異なれば、該概念を基にした、番組制作に関わる計画(意図)、実行、評価にボタンのかけ違いが生じるのも当然です。

具体的な疑問の一つを後述します。

(d)放送の自主自律


結構なことなんですが、何に依って立つのか、自らを律する行動規範が重要かと。で、この自主自律の程度は誰がを公正中立、客観的に評価することになるのでしょうか。

NHK経営情報のページにある、番組基準・編成計画 等、放送倫理・コンプライアンスも含めて後で考えます。

(e)質の高い多様な番組


やはり番組の質はどう評価されるのかに尽きるわけです。NHKの公共放送としての目的があり、該目的に沿った制作意図が番組に込められているはずです。で、放送によって意図が伝わったのか、目的に対する達成度はどうなのか、といった視点で質の評価はされているのでしょうか。

前記NHK経営情報のページには放送番組審議会へのリンクがあります。議事内容を閲覧することで答に近づけるかもしれませんが...

(f)民主主義社会の健全な発展

NHKだけを云々する意図は断じてないのですが、金科玉条のごとく民主主義を掲げるのも如何なものかと思っています。以前のエントリでも触れましたが、
”不確定の未来に責任の所在を先送りする”
ことは民主主義社会の一つの本質と捉えています。

上記文言からは、この民主主義を絶対不可侵のものとみなしているかの印象を抱いてしまいます。最上のシステムと盲信してその枠組み内に留まることは、枠組みの外から民主主義を俯瞰し、付随する問題が見えなくなる、目を瞑ってしまうのではないか、といった懸念を持つわけです。

現在の、例えば少子高齢化といった多くの先進国が抱える諸問題は、民主主義システム、正確には現在の民主主義システムに原因を求めることができるのではないでしょうか。

勿論、民主主義社会を否定する意図は毛頭ありません。ただ民主主義社会という社会システムを予断を排除して中立公正に捉えるためには、手放しの支持、安易な賛同ではなく、枠組みの外からの客観的な観察も必要ではないかということです。

民主主義が内包する問題から目を逸らさず対峙してこそ、自律する社会、賢い社会の実現に繋がっていくのでは、と考えます。

こういった観点から、民主主義ありきという出だしもなんだかなぁ、と思った次第です。

ところで、民主主義社会の健全な発展とありますが、では健全でない発展とはどういう事態を想定しているのでしょうか、興味のあるところです。


(続)

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