2019年9月21日土曜日

方便

関東で豚コレラが発生したことを受けてワクチンを接種することになったようです。

江藤拓農林水産相は20日、家畜伝染病「豚コレラ」のまん延を防ぐため、養豚場の豚にワクチンを接種する方針を正式に表明した。養豚の一大産地である関東で発生したことを踏まえ、接種を見送ってきた従来の方針を転換する。これにより、日本は国際ルールで定める「非清浄国」となる見通し。復帰には時間がかかる可能性が高く、豚肉の輸出などに影響が出そうだ。農水相、ワクチン接種表明=各知事が判断-豚コレラ対策
豚へのワクチン接種を開始すると、国際的に”ワクチン接種が必要な国”との位置付けとなり輸出する豚肉の商品価値が毀損する...豚コレラが中部地方の広い範囲で発生し、養豚産業に深刻な被害をもたらしているにも拘らず、政府がワクチン接種を認めなかった理由は、豚肉輸出の打撃になるため、そう理解していました。

では一体、日本の豚肉輸出量、輸出額はどの程度だろうか、というのは自然な疑問です。
農林水産省の、
平成29年農林水産物・食品の輸出実績 (品目別)
によれば、H.29年で約2,300トン(約10億円)とのこと。

一方、日本国内の豚肉生産量は、豚肉需給表によればH.29年度で897,000トンです。えーと、本当に全生産量の約0.25%程の輸出を守るためにワクチンの接種をしなかったのか?養豚業者に壊滅的被害が生じているのを座視していたのだろうか、俄には信じ難い話です。

上記に何か誤りがあって合理的理由によりワクチン接種をしなかったと受け止めたい処です。ただ、全く上記通りならば、行政に対する不作為の謗りは免れないと考えます。

ヒトの感染症であれば行政は迅速に対応するでしょう。輸出量、輸出額の点から豚肉が重要な輸出品目で、商品価値を毀損してしまうという理由でワクチン接種を躊躇したならば理解できないわけではありません。

ただ、巷間、スーパーを始めとする量販店で米国産やカナダ産の輸入豚肉が溢れる中、国産豚肉にどこまでの輸出競争力があるのか疑問を持って検索してみるとこの有り様です。

初動を謬ったのは間違いありませんが、ではなぜ謬ったのか。

推測してみると、
1)豚コレラの脅威を甘く見ていた。被害が拡大する中、行政の無謬性もあって、謬りを自認できず輸出云々を理由に置き換えた。
2)豚コレラの発生地とその周辺の地域単位でワクチン接種を行うと、当該地域で生産された豚肉にはワクチン接種豚のレッテルが貼付される。このことは国内での当該地域産の豚肉の商品価値を毀損してしまい競争力を減退させる。ざくっと言えば、ワクチン接種に由来する、国内他産地との競争敗退、売上減を避けたかった。
3)豚肉輸出関連業者からの圧力。
といったところでしょうか。結局被害地域が拡大し、現在に至ったわけです。

まず3)ですが上記0.25%程度の輸出量で圧力をかけられるとは考え難く、まあ、ないだろうと。不正な口利きがあれば別でしょうけど。

2)は理由としては合理的です。ワクチン接種実施を国が判断するわけです。大きな被害が生じている中部地方では、例え豚肉の商品価値を毀損させたとしても更なる被害拡大を抑えるために接種の実施を要望する立場かと考えます。豚コレラの発生していない関東の有力産地は接種に反対の立場でしょう。自分たちには被害が及んでいないわけですから。で、ワクチンを接種していない豚肉を出荷できるわけですから接種した豚肉より競争上有利になります。従って、国が中部地方のみワクチン接種という判断を下すならば、特段反対の声は上がらないように思えます。これが九州も含めて全国一律となると反発は必至でしょうけど。つまり、豚コレラが発生した地域限定でワクチン接種を実施とすれば、もっと迅速に被害を抑えることができたのではないかと。では何故その判断が下されなかったのか?

理由はやはり1)でしょうか。中央省庁からすれば、中部で大きな被害が出たとしても、関東の有力産地や九州の有名産地に被害が及ばない限りワクチン接種は不要としていたのかもしれません。それで結局初動が遅れ、現在の状態に至ったと。
このワクチン接種の実施について大村愛知県知事は、
――地域限定でやればそこの養豚業が成り立たない――
とか、全国一律など広域での接種について
――消費者までの関係事業者の合意が得られればありだと思う――
とコメントしています。ただ、地域限定でもワクチン接種しなければそこの養豚業は壊滅してしまうのでは?と思います。全国一律など広域での接種ならというのも、”豚コレラが発生していない地域で豚肉の商品価値を毀損するワクチン接種を受け入れるはずがない”わけで、結局話が纏まらず被害が拡大、という恐れがあります。

何か的外れではないかと。知事の職務はワクチン接種を拒否したり、自分たちの地域だけでなく他地域にも接種を要望することではないはずです。ワクチンが接種された豚からの豚肉の安全を訴え風評被害を防いで販売促進に努め、収束後一刻も早く清浄国に復帰すべくロビー活動を行うことこそ本来の役目ではないかと思った次第です。

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