2024年2月5日月曜日

荷担

他に方法はなかったのか、と。これではプリンタのビジネスモデルに自ら穴を開けるようなものです。互換インクの認容までではないかもしれませんが、結果として認容に荷担する力が生じています。

かつて米国の髭剃りメーカであったジレットに端を発する消耗品ビジネスこそがプリンタメーカのビジネスモデルであり利益の源泉です。(ジレットは現在、米国日用品メーカであるP&Gのブランドになっているようです。

”使ってもらって収益を得る”、これはプリンタ本体(髭剃り本体)の販売による収益性より消耗品であるインク(替刃)で利益を得るモデルです。場合によっては損失も受け入れ、とにかく本体販売数の増大を目指し、広く普及した後割高にも映る消耗品で投資を回収、持続的に利益を伸ばしていくわけです。

リース契約でオフィスに導入したコピー機の、コピー枚数に応じた課金制も、持続的に収益を得ていく上記モデルの一態様です。

このモデルの是非を云々する意図は特段ありません。実際、現在使用しているインクジェットプリンタ、カラーレーザプリンタでは、プリンタメーカによる純正インク、純正トナーを選択しています。

ところが、昨年年末の話です。使用頻度が年にニ、三度と数少ないインクジェットプリンタを使う機会が訪れたわけです。エプソンのPM-D870という年代物です。現在、主として使用しているのはカラーレーザプリンタであって、この程度のインクジェットの使用頻度ではとても新機種に更新する気にもならず使い続けています。

当然、該使用頻度ではインクノズルが詰まっています。今回は特に詰まりがひどいようで、ひたすらヘッドのクリーニングを繰り返しました。見る間にインクが減っていきます。

(結局、ヘッドクリーニングの繰り返しでは解消できず、エプソンのサイトを参照しプリンタを一晩休ませたら解消しました。

その後、ヘッドクリーニングで大量にインクを消費しましたから、追加でインクカートリッジを入手しようとした処、面倒な事態に遭遇した次第です。

インクカートリッジの一部商品の仕様変更について

必要なインクカートリッジの品番(IC6CL50)を確認した際、上記リンクに行き当たりました。なんでもカートリッジに使用している電子部品が入手不可となり仕様が変更になった旨、記載がありました。これがまたややこしいわけです。

IC6CL50はインク六色のセット製品で、

黒:                ICBK50
シアン:            ICC50
マゼンタ:          ICM50
イエロー:          ICY50
ライトシアン:      ICLC50
ライトマゼンタ:    ICLM50

といったインクで構成されています。これが各々、

黒:                ICBK50A1
シアン:            ICC50A1
マゼンタ:          ICM50A1
イエロー:          ICY50A1
ライトシアン:      ICLC50A2
ライトマゼンタ:    ICLM50A2

に変更されるとのこと(朱の文字色は分かりやすくするためです)。これだけであれば後継品を使えばいいわけでどうということはありません。ところが、この後継品を使うことで様々な問題が発生することがわかりました。インク残量が少なくなった時、これまで表示された”インクが少なくなりました”は表示なしになり、インク終了時の”インク残量が限界値を下回りました。”が”インクカートリッジを正しく認識できません。”になるようです。それだけならまだしも、更に説明を読み進めると、現在使っているPM-D870は本体のファームウェアの更新が必要になる場合があるそうです。

本体のファームウェア更新について

上記のプリンターにて変更品のインクカートリッジをご利用の際は、本体のファームウェアの更新が必要となる場合がございます。
お客様ご自身での更新作業はできません。
「引取修理(ドアtoドア)サービス」にて、お客様のプリンターをお預かりのうえ、当社サービス拠点にてファームウェアの更新作業を行います。
なお、更新に掛かる作業費、および、本体の配送に掛かる費用は無償で対応いたします。

引取修理って...このことを知ったのは12月28日です。これではプリンタが手元に戻ってくるのは年を越えたエプソンの正月休業明けです。ファームウェア更新の要不要は、PM-D870で現在使用しているファームウェアのバージョンに依るとのことで調べてみると、

2006年発売プリンターの一部における、本体のファームウェア更新について

該当していました。ファームウェアの更新を行わない限り上記後継品のインクが使えないことが分かりました。更にサイトの説明によれば、ファームウェアを更新しても後継インクのライトシアン、ライトマゼンタは使用できないとのこと...使用可能なインクは別途エプソン直販限定で販売って...いやいや、こっちは追加のインクカートリッジを購入して直ぐにでも印刷したいわけですよ。何せ12月28日です。

結局、現在使っているPM-D870ではファームウェアの更新が必要で2色のインクについてはエプソンの直販でしか入手不可ということです。

そうなると、それ程の手間と時間をかけて純正に拘る必要もありません。家電量販店にズラッと並んでいる互換インクを購入して無事用件を済ませた次第です。

元々、純正インクの継続生産を困難にした電子部品は、カートリッジ内のインク残量の管理に使われていただけでなく、互換インクの製造を制限するような役目も担っていたのでは、と想像しています。プリンタメーカにとって互換インクは苦々しいことこの上ないはずですから。

その部品が入手困難になって、つまりそれが仇となって、純正インクから互換インクの選択へと舵を切らせる結果となった、というのもなんだか皮肉な話です。

ところで、冒頭に記した、このビジネスモデルの端となったジレットですが、互換替刃は販売されていたのでしょうか。ジレットの髭剃り本体に適合するジレット以外の他社が製造した替刃です。インクジェットプリンタの互換インクやレーザプリンタの互換トナーほど互換品が氾濫しているようには見えません。アマゾンで検索してみると、確かに以下のような注釈を記した互換替刃は販売されているようです。

【警告イベント】交換用ブレードはジレット製品ではなく、ジレット社の正規品でもありませんのでご注意ください。本製品はジレットとの併用に適していますが、ジレットがスポンサーまたは承認したものではなく、関連ブランドでもありません。

ただ、それでも少数です。プリンタの互換インク、互換トナーほど一般的に出回っているようには見受けられません。価格はいわゆる純正品の1/2〜1/3にも拘らず、です。

収益性の差、プリンタの互換インク、互換トナー事業は儲かるが、髭剃りの互換替刃は儲からない、というのが合理的ではあります。もう少し掘り下げてみます。

その前に、これら互換インク、互換トナー事業はエコとかリイサイクルといった語を散りばめていたとしても、フリーライドであることには間違いない、と考えています。技術の幅広い自由な利用を制限する特許法から、自由で公正な競争を担保する独禁法からの二つの視点があることは承知しています。純正インクによる市場の独占は認められない、というのが法的な現状と捉えています。

さて、髭剃りの替刃とプリンタのインク、トナーの大きな違いは後者のカートリッジの存在です。これが互換インク、互換トナー事業への参入を許すことになった最大の理由です。

消耗品とは言え、消耗したのはカートリッジ内のインクやトナーであってカートリッジはまだ使える、それならインクやトナーを補充すればいい、というのが互換品出現の発端かと。又、当初、上記カートリッジには残存インクを管理する機能が付与されておらず、形状が該当プリンタに適合する当にインクの容器だった記憶があります。この容器を模倣して製造することは現在より困難ではなく、このことも互換インク市場の拡大に繋がったはずです。(トナーについてはおそらく複写機に使用されてきた互換トナーからの話になって事情がやや異なります。)

して、互換品を純正品の1/2〜1/3の価格に設定しても事業として収支が合う、という揺るぎない事実が根底にあるわけです。換言すれば、消耗品であるインクの利益をプリンタ本体の開発費他の損失に充てるビジネスモデルとは云え、インクを購入する側の立場からすればこの上なく高額な消耗品という印象が否めない、ということです。

互換インクメーカがフリーライドで跋扈する隙は、ここに生まれています。勿論、プリンタメーカがこの状況を指を加えて黙っている訳はなく、これまで特許訴訟等でフリーライドの排除を試みてはいるものの、必ずしも上手くいっていないのが実状です。

家電量販店で見かける互換インクの氾濫がその証左です。特許法で保護される技術の独占と、独占禁止法に依拠する公正な競争のせめぎ合いの具現化が見て取れます。必ずしも上手くいっていないのが実状です。現在、この綱引き状態は互換インク側が優勢ですが、この状態が永続していくものなのか興味深い処です。

実際、価格が同じであれば互換インクより純正インクを選択する、これは間違いない原則です。従って、純正インクの価格を互換インク並に設定すれば互換インクは確実に一掃されます。全くの同一価格ではなく、ある程度であれば互換インクとの価格差は許容され、ユーザーは純正インクを選択すると考えます。その程度は不明ですが、現在の互換インク価格の2〜3倍の純正インク価格が手放しで受け入れられていないのは明らかです。

どの程度の価格差になるとユーザーは互換インクから純正インクへ、純正インクから互換インクへと乗り換えるのか、明確な線引きはできません。以前の経験(成功/失敗)や評判、私用/公用、使用頻度といったユーザーの多様な属性が選択を左右するであろうことは記すまでもないことですから。そうであっても、選択の自由の下、価格や信頼性、性能を考慮した結果であることには相違ないはずです。

ここで少し横道に逸れて余計なことを記します。

類似の話は至る処に転がっていて、少し前に家電量販店の冷蔵庫や洗濯機といった生活家電エリアを訪れてみた際、国内メーカの製品と海外(中国)メーカの製品がコーナを隔てて展示してありました。両者のサイズや機能は全く重なっているわけではなく、単身、夫婦二人、大家族向け等、対象としている購入者層の棲み分けがざくっとできているようでした。それでも重なる製品も多く、そうなると同クラスの製品で[日立、パナ]、[三菱]、[東芝、シャープ]、[ハイアール、ハイセンス他海外メーカ]といったグループが何を理由に選択されるのか、といった話に行き着きます(アクアの位置付けは今ひとつ判じかねています)。極端には、[日立、パナ]を選択する購入者が[ハイアール、ハイセンス他海外メーカ]に選択を転じることはあるのか、あるとすればそれはどういった条件なのか...

故障して機能不全に陥ると生活に不便を来す、白物と称される冷蔵庫、洗濯機といった生活家電と、生活の娯楽的質を豊かにする、黒物と称されるAV機器で事情が異なるのは確かです。現時点では、白物についてはやはり耐久性、信頼性の観点から[日立、パナ]、[三菱]、[東芝、シャープ]が優先的に選ばれている印象です。壊れると面倒な事態になる白物では価格より信頼性や不具合時の対応が選択の優先条件になっているのが現状かと。

そこから遡って、かつて日本国内で薄型テレビの大画面化競争が激しかった時期がありました。液晶テレビだけでなくプラズマ方式のテレビも競合品として共存していた頃です。その辺りからポツポツとサムソンやLGの液晶パネルを採用してテレビに仕上げた製品が市場に出回り始めた覚えがあります。低価格で大型の液晶パネルを海外から入手することで大画面テレビを製品化する障壁は大きく下がる、と聞いていました。

そういった割安な大画面テレビに国内の有力AV機器メーカはどう対抗したか。明らかに不要と思しき機能を付加したり、信頼の日本製障壁は大きく下がる、と聞いていました。


そういった割安な大画面テレビに国内の有力AV機器メーカはどう対抗したか。明らかに不要と思しき機能を付加したり、信頼の日本製とかカメヤマモデルといった語で安価品との価格差を埋めようとしました。3Dテレビなどという筋悪もありました。何処に行ったのでしょうか。


この辺りから国内の有力AV機器メーカの凋落が始まりました。シャープは現在台湾資本の会社となり、東芝は粉飾やら原発やら様々な理由で満身創痍、テレビ部門を中国資本に売却しています。現在国内で販売されているテレビは、組み立てメーカーを問わず、その基幹部品である液晶パネルの殆どは中韓メーカからの調達品です。とかカメヤマモデルといった語で安価品との価格差を埋めようとしました。3Dテレビなどという筋悪もありました。何処に行ったのでしょうか。

この辺りから国内の有力AV機器メーカの凋落が始まりました。シャープは現在台湾資本の会社となり、東芝は粉飾やら原発やら様々な理由で満身創痍、テレビ部門を中国資本に売却しています。現在国内で販売されているテレビは、組み立てメーカーを問わず、その基幹部品である液晶パネルの殆どは中韓メーカからの調達品です。

これは、単に価格差が支配的要因だっただけではなく、残念ながら価格性能比で大差をつけられて、国内液晶パネルの開発製造が総崩れとなった結果ではあります。

白物は低価格品に抗って、未だ国内メーカが踏ん張れているというのが現状でしょうか。黒物はOEM品とまでは言いすぎですが、中韓メーカからの基幹部品の組み立て製品ですから選択の理由が不明確になってしまいました。

更に、選択理由としての価格について話を飛躍させます。

上記、プリンタのインクや白物家電では主たる目的(印刷/洗濯、冷蔵等)がほぼ同程度でも、付随する信頼性(純正、互換/国産、海外製)と価格のバランスが購入者の選択理由でした。

ではこれを拡張して合法/違法ではどうでしょうか。


(追記していきます)