2020年1月20日月曜日

選別(4)

かつて、情報産業の雄と目されていたリクルートです。前のエントリで記したように、雑誌を利用して市場機能の効率化を図り業容を拡大してきました。しかしながら、より効率的な媒体であるネット上では、かつて雑誌を利用したマッチング?仲介?の業態内にあったガリバー的存在感は感じられません。媒体の主流がネットへと移行した今、リクルートはもはや情報系企業の代名詞の座には位置しないとうことです。

それは単にネットを媒体とする情報系企業として後発だからという理由だけではなく、イノベーションのジレンマにも似たこれまでの成功体験による制限もその一因ではないか、考えています。

現在、ネットを媒体とした事業は多岐にわたり群雄割拠の状態です。物販や金融取引にしろサービスにしろありとあらゆる需給のマッチングがネット上で行われています。物販総合というかショッピングモールに限れば、国内での大手といえば、やはり楽天市場、アマゾン、Yahoo!ショッピングです。

リクルートのグループ企業が手がけるショッピングモール、ポンパレモールは上記有力グループの後塵を拝しています。auが運営する、最近躍進目覚ましいというか大盤振る舞いを続けているau Wowma!と同じく二番手グループといった処でしょうか。両者の趨勢は真逆に見えますが。

このポンパレモールは、確かリクルートグループがクレジットカード事業に進出する際、登場したショッピングモールという記憶があります。当時、既にクレジットカード事業を手がける各社は自社カードのインセンティブとして活発にポイント還元を喧伝していました。リクルートグループもリクルートポイントという高い還元率を謳うポイントシステムを引っさげてカード事業に参入したわけです。その際、カード利用者にポイントを貯めさせるための決済先、及び、貯まったポイントの費消先として、やはり物販サイトが必要となりショッピングモールであるポンパレモールが登場したと、そんな経緯を推測しています。ポイントが利用できるショッピングモールがない場合、旅行予約サイトのじゃらん、美容関係予約サイトのホットペッパービューティー、飲食店情報サイトのホットペッパーグルメだけではポイントの利用先として余りに貧弱ですから。

au Wowma!についてはより弱小の旧DeNAショッピングを呑み込む形で今に至っているようですが、それはさておきます。

で、このポンパレモールが未だ低迷状態にある理由が、(現在はポンタポイントとの高い互換性を有しているとしても)上記リクルートポイントの認知度の低さと上記有力グループより後発という部分にあるのは勿論首肯できます。ただそれ以上に、時流への対応力というか、時代への順応力こそが主因であると捉えています。つまり、情報誌が媒体の主力であった時代に隆盛を誇った、かつての成功体験をネットワーク利用を前提としたwebメディアに活かすことができず、むしろ移行への足枷になってしまっている、ということです。これが先述イノベーションのジレンマの意味するところです。

ソニーのトリニトロン、米コダックの銀塩写真のフィルム、米ポラロイドのポラロイドカメラあたりが代表例です。技術の潮流に大きな変革が起きる時、それまでの競合に対して優位な立場が、急激に劣位に逆転し、極端な場合には圏外に弾き飛ばされてしまうわけです。リクルートグループも、情報誌という雑誌を媒体とした情報の取り扱いで優位性を保ってきたが故に、webメディアへの移行が遅きに失したと。

おそらく当事者はその移行の遅れを認識していなかったわけではなかったと思います。しかしながら、そうであっても安住の場から降りるには勇気、決断が必要ですし、移行期間中はレガシーメディアである情報誌との両立を迫られます。媒体としての情報誌を一時に全て切り捨てることはできません。レガシーメディアとモダンメディアであるwebメディアを共に肯定して両者を併存させることになります。このことは、次世代のwebメディアの設計に旧来の思想、慣習、方法論が意図せずとも反映されてしまうことに他なりません。

情報誌とwebメディア間の整合性を保つために、情報誌ベースの手数料体系をwebメディアにも適用するというのもその一例です。リクルートの手がけるメディアではありませんが、新聞の購読料が開示されていて、判りやすい典型ではないでしょうか。

具体的には、日経では、宅配の新聞が月あたり、朝・夕刊セット版地域で4,900円、電子版が4,277円です。新聞の朝・夕刊宅配と電子版のセットでは5,900円(宅配4,900円 + 電子版1,000円)です。電子版新聞購読料金は明かに、新聞の宅配購読料金に準じて価格設定されています。”新聞を宅配購読すればおトク(1,000円)電子版を購読できる”一方で、電子版のみの購読なら、4,277円と。電子版の価格設定の根拠はよく判りません。

それでも、電子版を添え物にして宅配の新聞購読を存続させようという日経の意図は見て取れます。当にレガシーメディアに関わる従前からの規定がモダンメディアの設計に影響を与えているわけです。

上記の関係性がリクルートの発行する情報誌と、同じ情報を取り扱うwebメディアにもあるだろうということは容易に類推できます。

これに対し、楽天、アマゾン、Yahoo!といったレガシーメディアを持たないweb専業の大手は、スタートアップ時からネットとの親和性を最適化した事業設計が可能です。更に言えば、レガシーメディアを否定し、駆逐するかの如く事業を展開しているという見方も外れてはいないと考えます。新しい酒は新しい革袋に盛ってこそであって古きは衰退し消失していくのが世の習いです。

上記を鑑みてポンパレモールの先行きを考えてみると、なかなか単独での存続には難しいものがある、とみています。リクルートグループは確かに情報サービスを事業とする旧くからの有力な企業グループです。ただ、実は商材として情報を扱っているが、自身の事業そのものIT化はそれほど進んでいないのでは、と推測しています。リクルートグループの、いわゆる体育会的体質と共に、人海戦術や顧客の情に訴求するウェットな営業姿勢というのもしばしば耳にする話です。そういった部分もレガシーメディアの体質を継承しているとも受け止められ、昨今のweb関連企業とは隔たりがあるような印象です。

そういったレガシーメディアが主流であった頃の体質、事業姿勢を断って、むしろそれを否定する立場に転向する必要があるわけですが、ただ、これが困難というか無理ではないかと。

その解決にはおそらく、他社による主導、即ちショッピングモール事業の他社への譲渡、或いは他社との統合以外に選択肢はないだろうと見立てています。その相手としてはポンタポイントの提携企業であるローソン、或いは携帯のキャリア辺りが妥当な処でしょうか。生き残りをかけたポンパレモールの移管は不可避と言及しておきます。


次のエントリでは附言を少し)