2015年10月20日火曜日

障壁

時流に乗ってTPPについて少し記してみようかと。門外漢ですが...

TPP環太平洋連携協定)による関税撤廃品目の全容が明らかになりました。
TPP重要5項目 3割174品目の関税撤廃
TPP「関税」撤廃するモノ 残るモノ
(TPP協定)における工業製品関税 - 経済産業省
驚いたのは11年後とはいえ、革靴の関税撤廃が決まったことです。国内事業者保護の名の下、30%又は4300 円/1足という税率が撤廃されるとは思ってもみませんでした。

この理不尽な高税率は様々な事情によるもので、撤廃には至らないかも、とみていました。

撤廃までの11年、又撤廃以降も保護、競争力育成、振興、対策、合理化といった名目で無駄な国費が投入されないことを願うばかりです。

ガット・ウルグァイ・ラウンド合意で徒費した農業合意関連国内対策事業費(6兆100億円)の轍を辿らないという理由が見当たらないのです。規模はともかくとして。

で、TPPと言えば取り敢えず農業が俎上に上がるわけです。安価な輸入農産物が国内農業を壊滅に追いやる、と。

農業については不案内で傍観者の立ち位置から記すことになりますが、素朴な疑問を少し。


自由主義経済社会にとっては、自由な物品の交易こそが生命線です。モノの動きの駆動力は、原則として需給と価格、機能、品質といった競争力のみに依るべきであって、保護主義に基づく関税制度は円滑な流れを阻む抵抗以外のなにものでもないとみています。

そういった理由で例えば繊維製品、陶磁器などかつて隆盛を誇った産業が衰退の道を歩みつつあるのではないでしょうか。電気、電子製品も競争力が低下しつつある現在、その今後が安穏とできる状況とは言い難いのは明らかです。

では、農業を特別扱いして、国内産業保護が声高に叫ばれる理由は何かと考えれば、やはり就労人口や、食料安全保障に関わる自給率が想起されます。農業従事者の生計のみならず、国民全体の健康や生命に影響を及ぼす事態が生じかねないということなんでしょう。

この辺りが例えば他の産業に対する見方と異なるというのは十分理解できます。ただ、だからといって関税や補助金によって国内農業を保護すべき、という論に手放しの支持はできないでいます。保護の農政は即ち既得権も維持されるという事であり、国全体の生産性低下を意味します。

一方、農業国である米国やフランスでもあっても、食料安全保障や競争力維持のため、補助金が拠出され農業従事者の所得補償に充てられていると漏れ聞きます。

大雑把には、輸出国の農業従事者は大幅にダンピングして農産物を輸出し、輸入国の購入者は輸出価格に関税が課税された農産物を購入していると受け止めています。

農産物輸出国の農業部門の国庫は赤字で、輸入国の農産物にかかる関税による税収は黒字ということでしょうか。後者に該当する、例えば日本では該黒字は国内農業への補助金や所得補償に廻されていくのでしょう。では、前者に該当するフランスや米国では赤字をどのように埋め合わされているのか、何がダンピングの原資となっているのか、興味のある処です。

これは例えば、大規模量販店がある商圏に進出、不当廉売で当該地域の小規模店舗を壊滅させた後、市場を独占する、そういった構図に似たものを感じないわけではありません。日本国内ではシャッター商店街としてよくある話です。まぁ、誤算だったのは高齢化、人口減少に伴う購買力の低下と物流技術進化に伴う通販の増加でしょうか。今日、大規模量販店であっても不採算店の撤退が盛んに報じられています。
ヨーカドーもアピタも…大型スーパー“冬の時代” 店舗閉鎖ラッシュ、消費者ニーズに対応しきれず
この不採算店の撤退の話も含めた、そういった自由主義経済の仕組を農産物貿易にそのまま当て嵌める、これを是とするのは躊躇を覚えます。
”ことさら国内農業を保護する必要はない。競争力のない国内農業から撤退して安価な外国産農産物を輸入すればいいじゃないか。”

そういった声があがるであろうことは承知しています。国際秩序が保たれている状況ならば合理的な話です。しかしながら、国際間に経済的、政治的な摩擦が予想される場合、食料は外交上の取引材料として使われ得ます。水産物、農産物といった食料が、エネルギー(石油、天然ガス)鉱物資源(鉄、銅、アルミ)に続く戦略物資であることは間違いありません。

輸出国による補助金に与って、日本の食料供給は割安価格の輸入に傾倒していく、TPP合意でこの流れが更に加速していくのは明らかです。ここで、食料という戦略物資の供給をどこまで他国に委ねられるだろうか、依存してしまっていいのだろうか、といった疑問が生じるわけです。

需給が緩い時、買い手市場の場合、いわゆる平時ならば問題ありません。しかしながら、気候変動による不作や災害、輸出国との関係悪化や紛争といった不可避の要因によるタイトな市場、売り手市場になった場合、食料輸入国は該市場の緊張に対する備えを持ち得だろうか、という話です。

不作や戦乱などで食糧危機が起こった時、農作物の価格は高騰しますし、又、自国優先で輸出制限もするだろうことは十分予想できます。この時、自国の食料供給を割安な農産物の輸入に頼り切った国家は、高騰した価格を甘受せざるを得ないわけです。おそらく、自国農業は衰退しきっていて食料供給に関わる扇の要を押さえられていますから。

戦後日本の、米食からパン食への食習慣の移行もその一例かとの見方も否めませんし、先々、捕鯨に対する規制というか締め付けの取引材料とされかねないことも容易に想像できます。

構図は、ほぼ全量を輸入に依存している原油や天然ガス、その他レアアースの場合と類似しています。相違は輸入依存度と自給可能性の多寡でしょうか。そういったエネルギー資源、鉱物資源に乏しいことは、かつてのオイルショックで実感させられた通りです。依然として、為替や産出国の思惑に右往左往させられ、資源獲得競争の真っ只中にいる状況には変わりありません。

数年前、石炭、鉄鉱石等、資源価格高騰の頃、円高基調であったにも関わらず周辺国に買い負け、といった話題も記憶に新しいところです。

こういった経緯から、日本は工業立国を志向する上で最重要の資源問題に比較的地道に取り組んできたと思っています。それは備蓄、資源国からの利権買取や共同開発、資源探査、新エネルギー研究、省エネ技術の開発であり、当時の是非の判断の正当性はさておき、原子力の利用もその一つです。

自然エネルギー(太陽光、地熱、風力...)の発電への利用、高速増殖炉、核燃料サイクルの開発、核融合の実証は勿論、工業製品の小型、軽量化、高耐久、高効率化、全て資源問題の改善へと帰結していくわけです。


(続)

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