2015年5月5日火曜日

漫画

以前、松江市で、漫画”はだしのゲン”の閲覧制限について騒ぎがありました。ことさら、蒸し返す意図はありません。

その後も、例えば、”美味しんぼ”が、”東日本大震災・福島第一原発事故に関する記述”を巡って物議を醸しました。

漫画のその描写内容についての真偽、信憑性、印象操作、偏向に纏わる批判が時折巻き起こります。

これら社会的に耳目を集めた事例も含め、”漫画”というメディアの怪しさについて思うところを記してみます。

上述の二作品に例示されるように、描写内容の真偽を裏付ける客観的根拠は乏しいわけです。それはそれで、”漫画だから”という理由で許容されてきた部分もあるのでしょう。

一方、作者に代表されるメディア側の立場からすれば、高評価を得たい、人気を博したい、売りたいといった思惑の下、作品の世界に引き込むためにリアリティを高めることが一つ手法であるのは明らかです。

漫画は創作、フィクションですが、虚構の言い換えでもあります。そこに、現実感を高めるため事実や科学的知見、実在の人物を織り交ぜ、全体が恰も事実であるかの如く印象付けると...

”実は事実ではない話”を、演出と既知の事実を組み合わせて新たな事実に仕立て上げていく、ということです。

まぁ、漫画に限らず、テレビ、新聞、週刊誌、ネットの情報等、あらゆるメディアで採られているであろう手法です。事実と公言して虚偽を流布するメディア、虚偽捏造の発覚など都合が悪くなった際、”フィクションですから”といった逃げ道を持っているメディア、どちらが誠実なのかよく判りません。

ただ、後者である漫画は読者に対して(易)しげな姿勢で近寄ってきます。とにかく、内容、意図を理解させ、惹きつけることを最優先にしているということです。勿論、漫画ですから内容の信憑性より重視されるでしょうし、又、その技法に長けているはずです。

読者側も理解できなければ、つまらなければ読みません。それで事は済んでしまいます。漫画は、その内容が読者に肯定的に受け入れられ、批判的な目には晒され難い特性があるのでは、と思っています。
印象操作、物騒な表現として洗脳の目的には、テレビと並んで好適なツールです。

一方、漫画の一語で括るにはその内容は多様であり、読者として想定される年齢層といった属性も相応して広きにわたっています。ただ、総じて少年〜青年あたりが主となる読者層ではないかと...憶測です。

おそらく知的好奇心が強いであろう、そういった若年層向けに社会、政治、倫理、思想についての、場合によっては宗教的メッセージを易しい表現で理解させるわけです。知的欲求への心地よい刺激は、価値観の摺り込みを行う格好の手段として利用される危うさを否めません。砂地に水が染み込むように...

漫画の全てにそういった意図が込められているわけではないでしょうが、全ての漫画に潜み得る恐れを排除できません。

勿論、知を獲得するという行為は決して阻まれるべきではありません。ただそこから更に、得た知見と無批判に向き合うことなく、何を考察し、どう判断するかこそが肝要でしょう。

ルキウスさんのエントリきっかけ一つとして、そういった視点で立ち止まってみました。漫画は果たして知の供給源としてその任に適しているだろうか、その責を負えるだろうか、ということです。


この問に肯定的姿勢で抵抗なく応えることは難しく、この時、払拭できない漫画の危うさを気づかされました。

少し例を挙げます。直ぐに思い浮かぶのは”インベスターZ”(モーニング,講談社)”美味しんぼ”(ビッグコミックスピリッツ,小学館)といったところでしょうか。島耕作シリーズ(モーニング,講談社)も旬の社会、政治的話題が頻繁にツマミ食いされていて、違和感を持つことがあります。


インベスターZ

投資(?)、投機(?)をテーマにしています。投資の入門漫画といったポジションを目指しているのでしょうか。小編毎に株式、FX、運用、成功、就活、起業といったキーワードに符合する話が進んでいきます。時には、実在の人物、起業家がストーリー中に織り込まれたりもします。

先日、
ウェブにおけるタイアップとステマ風ネイティブアドの境界線|やまもといちろうコラム
ネイティブアドのガイドラインが機能してくれないと、間違いなくネットの記事を一つも信じられなくなる未来が来てしまう件について
といった記事を拝読した際、媒体は違えどこの漫画もネイティブアドの一つかも、といった思いが頭を過ぎりました。”提灯点けてのか?”ということです。広告を意図したものか否かは存じません。

上記記事の一つはFX取引事業をグループ内に有するDMM.comのニュースに掲載されていたんですが...

今、FXをテーマに話進行中です。よくある失敗(損失)と成功の例、奇をてらうことを意図した小ネタ尤もらしい理由、格言、リスクとその限定策を織り込みつつ物語が展開していきます。まぁ、入門漫画の役割を担いつつ、読者の勧誘でも目論んでいるのだろうか、といった印象です。

おそらく、先日のスイスフランショックには触れることはないでしょう。話が深入りし過ぎてしまいますし、こんな危ない話は封印、封印と...

加えて教示役となる先輩、起業家といった登場人物の断定的な口調で話が進んでいきます。経験不足の人物がとった行動は(たとえ好結果だったとしても)全否定され、意表をつくような理由と、尤もらしい本来為すべき行動が唯一無二の如く示されていくわけです。
”いや、ま、いいんですけどね...漫画ですから。”
素直にこれを受け止めることができません。抵抗を感じます。もたもた記していた所、折よく、
マンガ「憲法改正ってなあに?」PDF
が物議を醸しています。
安倍首相の指示で作られた「改憲推進マンガ」がデタラメだらけであることが判明
両者の内容の真否、是非についてはさておきます。いずれ記すかもしれません。

上記漫画は典型ですが、まぁ、そういうことです。

ここまで極端であからさまであれば、意図がわかりやすく、反射的に身構えることができます。ある意味、その潔い、包み隠さない姿勢にかえって支持を集めてしまうかもしれません。それはそれでよろしくないなぁ、とは思います。

より懸念されるのは、そういった意図が、例えば、島耕作シリーズのような多くの読者を有する人気漫画に潜ませられることです。

読者に(易)しく、解りやすく近寄ってこられると...サブリミナル、フレーミング、アンカリングといった語が適当ではないとしても、先入観を利用した印象操作的な行為が可能になってしまわないでしょうか。

まぁ、”美味しんぼ”に改憲推進の意図が織り込まれることはないでしょうが...

政治、経済、社会的関心事をテーマとした漫画に目を通せば、その真偽、確度は勿論ですが、中立性、公正性、正当性、倫理性の点で、疑念を抱かざるを得ない事例には事欠きません。


(続)

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