依然、燻り続けています。解決の兆しすら見えません。
実業家?事業家?の堀江某、前澤某が、自身の名前を騙ったSNSの投資詐欺広告を野放しにしている件で、米メタ社に対し激しい憤りの念を顕にしました。未だ怒り醒めやらず訴訟にまで発展しているとのこと。
そのこと自体は全くご尤もな話で共感します。自分の名を詐欺という犯罪行為に使われれば不愉快極まりないのは間違いありません。ただ、この憤慨の着地点というか出口の予測については難しいものがあります。このまま収束することなく、定期的に憤懣を吐き出す姿が報じられる形で不毛な状態が延々と続いていくような気もします。
通底した、或いは類似の事例を挙げながら少し考えてみます。
最初に、より深刻で喫緊の対応が求められている事案です。以前、
子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇
という調査報道がNHKスペシャルで放送されました。該番組の後編では”アルバムコレクション”というアプリを介して児童ポルノが売買されている?されていた?実態が報道されました。どうやらパスワード認証機能を有する写真や動画の共有アプリを利用しているようです。売り手は犯罪性のあるコンテンツをこのアプリを介して投稿、買い手はパスワードを購入する形で該アプリからコンテンツを閲覧、若しくはダウンロードする仕組みのようです。
このアプリはAppストアや、おそらくGoogle Play他のダウンロードサイトに写真や動画の共有アプリとして公開されている?(いた?)ようです。パスワードの売上は投稿者、アプリの運営元で分配され、該運営元からアプリのプラットフォーマには場所代が支払われる、金の流れはそんな処かと。
関係者は、コンテンツの投稿者、購入者、アプリの運営元、プラットフォーマでしょうか。匿名性を高めるために決済に仮想通貨が利用されているのであれば仮想通貨の取引仲介者も構図の一端を担っていることになります。
で、問題はこの犯罪性のあるコンテンツの流通を撲滅する手立てはあるのか、という話です。上記番組でも手詰まり感が漂っていました。
番組冒頭では大手プラットフォーマを批判的に描いていますが、特に該アプリとの関係を報じたわけではありませんでした。コンテンツの投稿者、購入者からのコメントもなく、これはおそらく取材できなかったためでしょうか。被害者は取り上げられいて、その深刻な被害を訴えていましたが、ただそれが該コンテンツ流通の抑止や撲滅にどう寄与するのか、疑問でした。最も時間を割いて追求を受けていたのはアプリ運営の過去の関係者です。しかしながら、該アプリは既に譲渡済で、詳細についてのコメントはありませんでした。取材側は”管理責任”の語で追求していましたが、これはある分野で始終耳にする道義的責任とか任命責任といった類の印象を否めませんでした。
率直には、既に自らの手を離れたアプリをツールにした犯罪被害について、法的根拠がなく攻撃力の低い言葉で”悪いと思わないのか”と指弾しても蛙の面に水、ということです。よしんば、”悪いと思っています。責任を感じています。”といったコメントが得られたとしても、それが事態を解決に向けて進捗させる一助たり得るとも思えません。
その後、譲渡先である直近の運営者の一人が逮捕されていたり、運営会社を顧客とする会計事務所の担当者が収入についてのコメントが伝えられるも、他の運営者二人は不明と。
総じて、問題提起に留まっていて、手を拱いている感は否めませんでした。結局、振り上げた拳をどこに下ろすかとなって、それならプラットフォーマか、というか現実的にはプラットフォーマ位しか下ろす先が見当たらない、というのが実の処ではないでしょうか。
本来であれば、この違法なコンテンツ(商材)を生み出す犯罪行為の根絶が最優先で、次いでこの違法商材を扱う商取引の撲滅、禁止策が講じられるべきです。そういった取り組みがあって、その上で犯罪行為を助長しているアプリやその運営者、プラットフォーマの責任を問い、規制する、というのが順当な手続きと考えます。
確かに、違法商材の取引に利用されることを確信して公開、運営しているアプリの存在は否定できません。しかしながら、該アプリが外形的に適法な写真・動画の共有アプリである場合、最優先に指弾して対応を要求するのは難しいのではないかと。何らかの法的根拠が必要です。プラットフォーマであればなおさらです。
需給関係に依拠した商取引の環境を提供している適法なアプリやプラットホームを、違法商材の取引実態があるという理由で対応を求めたとしてもそこに実効性はあるのか、という話です。法的根拠が不十分なまま、道義的理由で経済活動に介入するのは法治社会からの逸脱です。理不尽、不透明な人治社会を連想させます。
この構図は、そのまま薬物取引のそれにも合致するわけですが、話を戻して冒頭の投資詐欺と比較してみると違いに気づきます。児童ポルノや薬物取引の場合、その取引商材自体が既に違法なわけです。取引自体は一般的な経済行動であっても犯罪結果の売買ですから。
一方、投資詐欺の場合、一連の過程の中で犯罪は後から発生します。最初の騙り広告が表示された時点では詐欺事件もその被害も発生していません。犯罪が未然のまま防止できる可能性があるということです。投資詐欺は、フェイスブックに代表されるSNSに、著名人を騙った投資の勧誘広告が表示され、この広告からコンタクトした顧客(いわゆるカモ)がLINEによる多対一の閉じたコミュニケーション環境へと誘導されて始まります。ここから金銭、若しくか仮想通貨のような有価物を送金して犯罪行為、犯罪被害の発生となります。その後、口八丁やら架空の利益を餌にカモから身ぐるみを剥いでいくと。そんな流れでしょうか。私の理解です。
従って、詐欺被害が発生する前にいくつかの立ち止まる機会があるわけです。詐欺グループ側がカモを立ち止まらせない、客観的な判断をさせないような仕掛けをいくつも用意しているのは記すまでもありませんが。
SNSやらプラットホームからの勧誘や誘導の結果、金銭を賭けて初めて犯罪行為と認定される、オンラインカジノのケースも同じです。
つまり投資詐欺だろうが、違法賭博だろうが、送金するまで犯罪は発生していない、ということです。
この視点から、上記ネットを介した児童ポルノや違法薬物の売買、ネット広告を利用した投資詐欺やオンラインカジノの犯罪性を較べてみれば、より悪質で喫緊の対応が求められているのが前者であることは明白です。
冒頭のように著名人がインタビューを受け、自身の名を騙ったSNSの投資詐欺広告で被害を訴えることは、幅広い層から共感を得られるでしょうが、あくまで犯罪発生の入口、端緒の話です。そういった入口を作らせないことが犯罪防止に必要であることは勿論です。ただ、それでも衆目を集める入口の防止策ではなく、一線を超え既に深刻な被害が発生している犯罪に対する対策が優先されて然るべきと考えます。
犯罪性のある児童ポルノが未だネットを介して取引されているわけです。十分ではないとしても、その撲滅対策の一つとしてのプラットフォーマによる排除ですら進んでいない現状において、それに先んじてプラットフォーマが騙り広告の規制に乗り出すことは到底期待できません。
そうなると法的環境を整えてプラットフォーマに管理というか取締を強いるという話になります。実際、上記児童ポルノの調査報道では番組内で、
巨大IT企業GAFAによる、デジタル市場の独占に厳しい目を向けてきたEUでは、おととし(2022年)、児童ポルノなど、違法な情報の削除対応や、未成年の保護を義務づける法律が新たに成立。2023年、イギリスでも同様の法律が成立した。ともに、違反した場合は、企業側に制裁金が課されることになった。
EUや英国の例を取り上げていました。ただこの規制は大手プラットフォーマGAFAやXの本拠地が米国ですから、欧州が常套的に用いる域外への難癖、嫌がらせの意味も多分に含んでいると感じます。必ずしも純粋な欧州の正義、倫理に依拠した取り組みではないと思います。
オリンピック採用スポーツのルール変更、環境保護を理由にした内燃機関自動車の撤廃宣言、独禁法を利用した欧州域外IT企業への締め付け、に類似した印象を拭えません。
まぁ、動機はさておき外形的には番組の趣旨には沿っていますから”EUや英国では既に...”と先進的な取り組みの例として使えるわけです。米国では、
そして、プラットフォーム企業の本拠地アメリカでも、その責任を問う声が急速に高まっている。
とありますから、未だ立法化はされていないようです。この辺りに他所(米国企業)に規制を強いる欧州と、自国の企業に規制を担わせなければならない米国との差異でしょう。因みに日本の場合は、欧州ほど傲慢ではないか、或いは、米国(企業)に強く物申せない、といった処かと。米国プラットフォーマを狙い撃ちして規制を強いることになりますから。そういった点も鑑みれば、繰り返しになりますが、児童ポルノの取引についてプラットフォーマに規制を義務付ける法制化ですら時間がかかりそうです。であれば、プラットフォーマへの騙り広告の削除義務付けはまだまだ遠い先の話になりそうです。
下記リンクは、冒頭の実業家?事業家?の米メタ社に対する憤慨が話題になった直後頃の記事です。
米メタ社が「日本をなめている」のは、単に日本にEUなみの強力な法律がないからだ
これはその通りなんですが、先述の児童ポルノ取引におけるEUや英国の取り組みと同じ構図です。その目的もおそらく純粋な利用者保護というより域外企業に難癖をつけて課徴金をせしめる、ではないかと。で、該記事により日本国内の法的規制の遅れが問題であることは分かりましたが、米国の取り組みについては見つけられませんでした。こちらも、米国プラットフォーマを規制する法整備が米国に先んじて日本でできるのか、甚だ疑問です。米国で何らかの規制が確立し、それに準じ日本での規制が実現する、というのが妥当な流れではないでしょうか。
当面、野放し状態が続くとみています。
次に、”騙り”、”なりすまし”に着目して考えてみます。
次のエントリに続けます。